第15章 オバケの森
森を覆う霧が、だんだん濃くなってきた。
「チッ…、見通しが悪ィな。モモ、離れんなよ。」
言われなくても、離れなれない。
ローの腕に縋りながら、コクコクと頷いた。
「オバケなんか出ない。オバケは気のせい…。」
さっきからブツブツと呪文のように呟いている。
バサバサバサ…。
どこかで鳥が飛び立つ音に、おもしろいくらい身体が跳ねた。
「うぅ…。」
「音でビビんなって…。なんか歌でも唄って気を紛らわせたらどうだ。」
「歌…?」
良いアイデアかもしれない。
どちらにせよ、モモにできることは唄うことくらい。
口に出たのはこんな歌。
『時計の針が日付を変える頃、恐ろしい悪魔が目を覚ます。
月が隠れ人々が眠る頃、蘇る。』
『誰もが眠り、悪魔は目覚める。
真夜中の闇へ、君を誘う。恐ろしい悪魔…。』
「…オイ。」
辺りの霧がいっそう濃くなった気がする。
『凍てつく霧が、わたしの視界を曇らせる。ほら、君の後ろ。
気づいたときは、もう遅い。』
『わたしの後ろ。ほら、逃げ場はない…。』
さっきより深まったおどろおどろしい雰囲気に歌が止んだ。
「ふえぇ、怖い…。」
涙が滲んで続きが唄えない。
「…お前、バカなのか。」
誰がそんな歌を唄えと言った。
「だって、気持ちが乗せられないんだもの。」
今の自分に明るい歌を唄うのは無理だ。
「だからって、そんな歌を唄うやつがあるか。」
おかげで怪しい気配が集まってきたじゃないか。
「…仕方ねェ。」
ローは立ち止まると、周辺のナニかに向かって威嚇するように、ブワッと覇気を放った。
ザザザ…ッ
様子を窺っていた生物たちは、恐れをなして逃げ出したようだ。