第14章 食虫植物
「この子、きっとピクミンだわ。」
「ピクミン…?」
聞いたことのない名前だ。
「絵本で見たことはない? 植物を愛情込めて育てると、ピクミンになるのよ。」
それはグランドラインの一部の街で有名な絵本の話。
女の子が大事に大事にお花を育てていたら、ある日その花が、ピクミンという妖精になったのだ。
その妖精が、ちょうどこんな姿をしていた。
「いやいや、それ、絵本の話っしょ?」
実際にそんな話はあるわけない。
「いや…、あながちそうとも言えねェな。北の海に伝わる空島の絵本も実話かもしれねェんだ。その絵本が本当の話でも、不思議じゃない。」
「けどよぉ、船長。その話が本当なら、世界にゃコイツがもっといるはずだろ?」
植物を愛する人は、世界に星の数ほどいるだろうから。
「さァな。でも、コイツは毎日モモの歌を聞いて育った。そのへんが影響してるかもしれねェな。」
「モモの歌…か。」
そう言われてしまえば、納得するほかない。
「てことは、最近船で起きてた紛失事件の犯人はコイツってことッスかね。」
言われてみれば、鉢植えの近くにカップケーキのクズが落ちていた。
「…そうなの?」
「きゅぅ…。」
申し訳なさそうに、その子は俯いた。
「おなかが空いてたのね。」
「食“虫”植物なんじゃないんスね…。」
どうやら、雑食らしい。
「ねえ、ロー。この子、わたしが面倒見るから、だから--」
この船に置いて欲しい。
ハァ、とため息が落ちた。
「奇妙な生き物はベポだけで十分だと思ってたんだかな。」
「奇妙でスミマセン…。」
ズーンとベポが落ち込み、膝をつく。
「じゃあ…。」
モモはパッと顔を輝かせた。
そんな顔をされて断れるわけないのに。
「仕方ねェな。」
「良かった、嬉しい! あなた、今日からハートの海賊団の一員だって。」
「きゅい!」
モモが喜べば、その子も葉を揺らして踊るように跳ねた。