第14章 食虫植物
「ねえ、ロー。ネズミって船によく出るの?」
部屋へ戻る途中、ローに尋ねてみた。
「よくってほどじゃねェが、たまに出るな。島に上陸したときに一緒に乗せちまうらしい。」
一度出航してしまえば、ネズミの逃げる場所はなくなり、船に居続けるしかなくなる。
食料を荒らされるのも問題だが、繁殖されでもしたら目も当てられない。
「駆除のために、猫を飼う船も多いくらいだ。」
特に貨物船や、大きな船では必ずと言っていいほど、猫を飼うらしい。
「そうなの。わたしも薬草が心配だわ。」
「まあ、姿を見かけたわけじゃねェから大丈夫だろ。」
子供の頃は、よくネズミやカエルを捕まえて、解剖の材料にしたものだ。
おかげで周囲の女の子たちからは、ずいぶん敬遠された。
「それはちょっと…、ビックリな子供ね。」
「もうしねェよ。」
勉強のためとは言え、自分の子供がいきなりネズミやカエルのお腹を開き始めたらビックリしちゃう。
「あ、でもそしたら、今度また大きい魚が釣れたら、捌くの手伝ってくれる?」
「お前…、医術と料理を一緒にするなよな。」
「ちょっとメスを包丁に変えるだけだよ。」
思ってみれば、ローは器用だし、料理も上手そうだ。
「さっきまで引いてたくせに、現金なヤツだな。」
そう言ってモモの額を軽く小突いた。
部屋に戻って読みかけだった本を読もうと、いつもの窓際の椅子に腰掛けようとしたとき、そこに置いてあった鉢植えの異変に気がついた。
「え…ッ!」
「どうした?」
信じられない、と声を上げたモモに、ローは素早く反応した。
「芽が…、なくなってる。」
思わず鉢を持ち上げて覗き込むけど、芽が生えていた場所にはポッカリと小さなが開いており、そこには芽はおろか、根っこすら残っていない。
あんなに大切に育てたのに…。
「ネズミの仕業か…?」
だけど、こんなに綺麗に根こそぎ食べるものだろうか。
「うぅ…。」
悔しさに瞳がうるうる滲んでくる。
「泣くなよ…。次の島で、また買ってやるから。」
「…いらないもん。」
新しい子では意味がない。
大事に育てたのは、この子なんだから。