第14章 食虫植物
その後、死にたてほやほやのウツボとの戦いは、それなりに苦戦したが、モモの圧勝で終わった。
「ふぅ…、こんなものね。」
皮を剥ぎ、ようやくウツボを三枚におろした。
モモは自分で料理は得意な方だと思っているけど、それはあくまでも一般的な話。
どこかのレストランで修業したわけでも、飲食店を経営していたわけでもない。
家庭的な料理ならともかく、こういう未知なる食材には戸惑ってしまう。
まだ今回のウツボ程度ならどうにかなるが、海獣とか化け物級の生物を料理しろ、と言われたらお手上げだ。
そりゃあ、みんな手伝ってくれるだろうけど、なにかと不器用だ。
せめて、サポートしてくれる誰かがいてくれたらいいのに。
「よし、仕込みはこれで大丈夫ね。…あ、いけない。アジのこと、すっかり忘れてた。」
開いて干物にしようと思ってたのだ。
確か、キッチンの外にバケツごと置いたはず…。
急いでドアを開け、バケツを取りに行く。
目当てのバケツを発見し、中を覗くと…。
「あった、あった。……あれ?」
人数分釣ったはずの魚は一匹もいない。
逃げてしまったのかと辺りを見回したけど、魚が飛び出した形跡は見つからない。
「まさか、海まで跳ねた…とか。」
そんなわけない。
巨大ウツボと違って、ただのアジだ。
では、どこに…?
「…こんなとこで、どうした?」
「あ、ロー。」
ようやく部屋から出てきたローが、様子を見に来た。
「釣った魚がいなくなっちゃった。」
海水だけ入った、空のバケツをローに見せる。
「逃げられちまったのか?」
「うーん、でも…。ここから海まで逃げられるかなぁ。」
ただのアジに見えたけど、実はすっごくジャンプ力のあるアジだったのか。
「じゃあ、ベポにでも食われたんだろ。」
「…え。」
生きた魚をつまみ食いする白クマ。
それはなかなかシュールな光景だ。
「残念だったな。」
慰めるように、ポンと頭の上にローの手が置かれた。
「うん…。」
鳥にでも盗られたのかもしれない。
釈然としなかったけど、そう自分を納得させた。
ムシャムシャ…。
船の倉庫で、誰かが魚を食べているなんて思いもせずに。