第14章 食虫植物
それからしばらく時間が経ち、モモが目標としていた五匹目のアジを釣り上げたとき、ついにシャチの釣り竿がビビッと反応した。
「ぃよし、来たァ~!」
大きく竿がしなり、水中で魚が暴れる。
「シャチ、頑張って!」
今夜のおかずのためにも!
「任せとけ…って、…どぉりゃあぁぁ!」
バシャーン!
激しい水しぶきを上げて、船上に大きな獲物が釣り上げられた。
ビタビタッ。
うねうねうね。
「こ、これは…。」
明らかに普通の魚が発する音じゃない。
2メートルを越す体長。
蛇のような動き。
剥き出しの牙が、ギラリと光る。
「お、ウツボじゃん。」
「ウ、ウツボ…。これが…。」
こんな大蛇のような魚は初めて見た。
ぐるりとトグロを巻き、口を大きく開けてこちらを威嚇してくる。
(ど、どうしたら…。待って、落ち着くのよ。)
危険生物についてもいろいろ勉強したのだ。
ウツボは指を食い千切るくらい、顎の力が強いらしいので、後ろから首根っこを掴んで捕獲するか、頭を棍棒などで叩いて気絶させるのがいいらしい。
(うぅ、怖い…。)
ウツボの背後に回り、震える足でじりじりと詰め寄る。
シャチが頑張って釣ってくれたのだ。
ここはモモが女を見せないと…!
(わたしだって、やれば出来--)
スパーン!
「…え?」
掴みかかろうとしていたウツボの首が切り離され、ゴロリと床に転がり落ちた。
生命力の強いウツボは、首が落ちてもなお、ウネウネと動いている。
「うお、すっげー。頭だけになっても噛みつこうとしてくる。ほら、見てモモ。」
ヒョイと持ち上げたウツボの頭を、シャチが満面の笑顔で見せてくる。
彼は今、目にも止まらぬ速さでウツボの首を落としてみせた。
手刀で。
(…ああ、そうよね。)
忘れてた。
この船には化け物みたいな強さを持った人たちしか乗っていないってこと。
「コレ、キッチンに持ってっとくからー。」
数十キロはありそうなウツボの巨大な体を片手で抱え、シャチはキッチンに消えた。
「…ウツボ、捌けるかな。」
どうやらモモの戦いはこれから始まるようだ。
自分が釣り上げたアジが入ったバケツを持ち上げ、気合いを入れ直してシャチの後を追った。