第14章 食虫植物
カップケーキを焼き上げたあと、せっかくだからそのまま夕食にしてしまった。
部屋へと帰る途中、この船の食事担当としてモモは悩んでいた。
(うーん、みんなよく食べるなぁ…。次の島まで食料が保つかしら。)
出航時には満タンだった冷蔵庫の中身は、ずいぶん寂しくなってきている。
このままのペースでは、あと数日で空になるかもしれない。
そうしたらその後に待っているものは、保存食ばかりの味気ない食事。
食事は日々の大きな糧だと思うので、できればそんな事態は避けたい。
「…やっぱり、釣りに頼るしかないわ。」
モモにとっては、苦い記憶がある釣り。
しかし、美味しい食事のためなら、そうも言ってられない。
あれから危険な生物のこともたくさん勉強した。
だから、もう二度とあんなことにはならないと思う。
(けど、念には念を、よね。)
復習がてら、再度本を読み直してみよう。
そう思って部屋に戻り、ローの本棚を漁った。
「あった。これこれ…。」
前に一度借りた本を取り出し、窓辺の椅子に腰掛ける。
西日が眩しかったから、レースカーテンを下ろそうとしたとき…。
「あら…?」
窓際に置いた食虫植物の鉢が目に入る。
その違和感に、思わず二度見してしまった。
今朝、芽を出したばかりの食虫植物は、確実に大きく育っている。
「もうこんなに大きく…? 芽を出したら急速に育つタイプなのかしら。」
どちらにせよ、元気に育ってくれるのは嬉しい。
赤く色づく葉をちょんとつついた。
その瞬間、葉っぱがくすぐったそうにフルリと揺れた気がした。
「--!?」
驚いて手を引っ込め、ゴシゴシと目を擦る。
「……?」
チョイ。
もう一度、葉をつついてみる。
しーん。
なんの反応もない。
やっぱり気のせいだったみたいだ。
(…? わたし、疲れてるのかな。)
ありもしない幻覚を見るなんて、最近夜更かしをしすぎたのかもしれない。
ふう、とひと息吐いてカーテンを下ろし、椅子に腰掛ける。
ようやく本を読もうとして、ふと床に散らばるゴミ屑が目に入った。
掃除はしっかりしてたつもりなのに…。
絨毯に膝をつき、ゴミを拾ってみると、あることに気がついた。
「…これって、お菓子の食べカス?」
どうしてこんなところに落ちているんだろう?