第14章 食虫植物
「もう、ほんとに拭いたってば…。」
みんなが見てるのに、子供扱いされて恥ずかしい。
なおも構おうとするローの腕をくぐり抜けて、ベポの後ろに回る。
「そんなに拭きたいなら、ベポを拭いて。」
まだ濡れていると言ったのに、そのままバスルームを出て行ってしまった彼は、自分よりも数倍湿っている。
「え…。」
ベポのつぶらな瞳が、拭いてくれるの? キャプテン。と訴えている。
「お前は外の風にでも当たっていれば十分だろ。」
ガーン!!
ベポの儚い希望は、あっさりと打ち砕かれる。
「濡れたクマでスミマセン。」
ガクリと膝をついてうなだれた。
あいかわらず打たれ弱いクマである。
「ベ、ベポ…、落ち込まないで。あ、そうだ。わたし、おやつにカップケーキを焼いたの。」
洗濯が終わったら、みんなで食べようとテーブルに…。
「…あら?」
テーブルに置いたはずのカップケーキが見当たらない。
「…ないわね。シャチ、ペンギン、食べちゃった?」
この中で一番可能性が高そうな2人を見る。
「俺は食べてねぇッス! あ、でも、俺より先にシャチがここにいたから、たぶんシャチが…。」
「ちょい! 待てよ、俺だって食べてねぇよ!」
「ボクのカップケーキ…。」
失敗した。
完全にケンカの火種を作ってしまった。
「ああ、うん。ないならいいの。また焼くから。」
慌てて話題を逸らすことにする。
「カップケーキは焼きたてが美味しいし。4つくらい、すぐに焼けちゃうわ。」
「…オイ、なんで俺の分が入ってねェんだ。」
「え、だってロー、パンっぽいもの嫌いでしょ?」
「……食う。」
パンは嫌いでもケーキは好きだったのか。
「そうなの。ごめんなさい、ローの分も焼くから。」
さして気にもとめずに、モモは作るケーキの数をひとつ増やした。
(船長、自分だけ作ってもらえないのが嫌なんスね。)
(ああ、ぜったいそうだ。)
コソコソ話す2人の声は、幸いローにもモモにも届いていない。
それにしても、さっき焼いたケーキはどこにいったんだろう…?