第3章 ハートの海賊団
医務室にいた全員が凍りついた。
ローでさえも。
柔らかく、温かな感触を唇に感じた。
その時、フルリと震えた彼女の睫毛が、ローの頬をくすぐった。
ハッと我に返ったローは急いで唇を離した。
バチリ
いつの間に目を覚ましたのか、彼女の瞳は開いていて、至近距離でバッチリ目が合ってしまった。
見たことのない金緑色の瞳から目が逸らせない。
「「……………。」」
互いに無表情の無言を貫いた。
天の助けか、沈黙を破ったのは白きクマの声。
「わー、良かった!目が覚めたんだね!」
バッとローは彼女から飛び退いた。
後ろの2人の視線が痛い。
「気分はどお?身体は痛い?」
代わりにベポが彼女に詰め寄り問いかける。
彼女は状況が掴めず視線をさ迷わせていたが、ベポの問いにふるふると首を振った。
「良かった!」
彼女はゆっくりと身体を起こした。
が、傷に響いたのか途中で顔を歪めた。
「……ッ」
「ああ、ダメだよ、無理しちゃ。」
慌ててベポが助け起こす。
彼女はペコリと頭を下げた。
「オイ、お前。」
ようやく先程の衝撃から立ち直ったローが口を開いた。
「お前は何者だ、なぜ海軍の船にいた。」
「……。」
彼女は黙ったまま、答えない。
「待ってよ、キャプテン。この子だって状況がわからなくて困惑してるよ。」
確かに、彼女は目覚めたばかりでここがどこかもわからないだろう。
「ボクはベポだよ!よろしくね。」
「お、俺、シャチ!」
「俺はペンギンっス!」
どさくさに紛れてしっかり2人も自己紹介をした。
「…俺はトラファルガー・ロー。このハートの海賊団の船長だ。」
「…!」
彼女は初めてここが海賊船であることを知ったようだった。
「君の名前はー?」
ベポに問われて、彼女はベポの手を取った。
しかしフワフワの毛に覆われた彼の手のひらを見て、悩ましげに眉をひそめた後、そっと戻した。
「?」
仕方がなく、その隣にいたローの手を取った。
「!?…なんだ?」
指に描かれた『DEATH』の文字に一瞬硬直するが、すぐに気を取り直して手のひらを向けた。
そして手のひらに指で書き綴る。
『モモ』