第14章 食虫植物
昨夜のモモの歌が効いたのか、ローはひさしぶりに熟睡した。
翌朝、モモに叩き起こされるまでは…。
「ロー! ねえ、ロー! 見て、見てッ」
朝早く、未だ夢の中にいたローを、その手は遠慮も知らずに、グイグイ揺さぶった。
「ぅ…んん…。」
「ねえ、ローってば! 起きて、おーきーてーよー!」
焦れた様子でカバリとローに馬乗りになったモモは、その勢いのまま肩をバシバシ叩いた。
「ぃ…て…。なんだよ…。」
心地良い眠りから、文字通り叩き起こされたローは、不機嫌に唸った。
「見て、ロー! 芽が出たの!」
「…あ?」
重い瞼を開ければ、満面の笑顔を咲かせたモモと、ちょこんと可愛らしく芽吹いた鉢植え。
「部屋に移したことが良かったのかなぁ? ああ、良かった。」
もしかしたら、種は死んでしまっているのではないかと心配していた。
頬ずりしそうな勢いで、うっとりと芽を見つめる。
「…良かったな。」
正直、食虫植物の芽なんてどうでも良かったけど、モモが心の底から嬉しそうに笑うから、ローも良かったと思えた。
「…そろそろ、どけ。」
「え? あ、ごめんなさい…!」
興奮して、ついローの上に跨がってしまった。
慌てて転げ落ちるように退く。
「普段もそれくらい積極的だといいんだがな。」
ローの上に跨がるなど、正気のモモは絶対しないだろう。
大きく伸びをして、モモの腕の中にある鉢植えを覗き込んだ。
ほんの数センチだけ顔を出した芽は、茎は青々とした緑色だが、一枚だけつけた葉は種と同じく真っ赤な色をしている。
「見たことねェやつだな。」
赤く染まった葉は綺麗と言えなくもないが、なんとなく気味が悪い。
「ね。図鑑にも載ってなかったの。そういえば、菜園のおじさんが品種改良を重ねたって言ってたから、全然新しいタイプなのかもしれないわ。」
なにをどう改良したのかは聞いてなかったが、それはおいおい調べるとして、今は芽吹いたことを喜ぶべきだ。
「ふふ。しばらくの間、この子は部屋に置いておきましょう。」
鉢植えを元の窓際に置き、上機嫌で言った。