第14章 食虫植物
「ったく…、ランプくらい持って行け、バカが。」
明るい場所でも転ぶくらいの転ぶ天才なのに、どうしてそんなこともわからないのだろう。
「ごめんなさい…。」
「それと、鉢植えよりも自分の身を庇え。」
しっかりと胸に抱かれた鉢植えを睨みつける。
「え、でも…、割れちゃったら大変だし。」
「お前、自分の身体と鉢植えと、どっちが…いや、いい。」
どっちが大切か。
そう聞きたかったけど、「鉢植え」という答えが返ってきそうで怖い。
ハァ…、とため息を吐いて、片手でモモから鉢植えを取り上げると、もう片手で彼女の手をとった。
「ほら、足元気をつけろよ。」
「うん。」
ローには僅かな月明かりで周囲が見えているようだ。
ランプがなくても、何事もないように手を引くローに連れられて、モモは部屋に戻った。
鉢植えを部屋の窓際に置き、傍らの椅子に腰掛ける。
「オイ、戻って来たら寝る約束だろう。」
「ローも寝るなら、一緒に寝るわ。」
最近ローが自分よりもずっと夜更かしをしていることを知っている。
「もう少しやっておきたい研究があんだよ。先に寝てろ。」
そんなこと言ってるから、目の下の隈が消えないのだ。
「じゃあ、わたしもまだ寝ない。」
「ワガママを言うんじゃねェよ…。」
たしなめるローを無視して、鉢植えをそっと撫でた。
そして優しく唄い始める。
静かな夜にふさわしい、穏やかな歌。
恥ずかしがり屋のこの子が、早く顔を出してくれるようにと。
そう願いを込めて唄った。
優しい旋律の歌を聞いているうちに、だんだんと眠気がやってきた。
「あれ、ロー。眠たそうね? 」
そんな様子のローに気づいたモモが微笑んだ。
「お前…、ズルイぞ。歌で眠らそうとしてるな?」
「心外だわ。今の歌にそんな気持ちは込めてないもの。ご希望なら、子守歌を唄ってあげるけど。」
眠りに誘う歌。
ローくらい、あっという間に落とせる自信がある。
「いや、遠慮しておく。」
要はただ単純に、モモの歌に心地良くなって眠気が訪れただけだ。
「…寝るか。」
こうなってしまっては、もう集中できそうにない。
「うん。」
結局、モモの思惑通り、2人揃ってベッドに入ることになった。
どうしたって、彼女には適わないのだ。