第14章 食虫植物
「というか、そんな大切な本、貰えるはずないわ。」
ローはたった今、この本がどんなに大切ものか教えてくれたばかりじゃないか。
「別に…、俺が持っているより、お前が持っていた方が役立つと思っただけだ。」
その本は、何度も何度も読み返した。
けれどローでは、薬草ひとつ満足に育てることができない。
ならばモモの手元にあった方が、有効に使えるというもの。
「…それに、お前なら、大事にしてくれるだろ?」
コラソンとの思い出が詰まった本だ。
ローにとって、大切じゃないはずがない。
それでも、モモにならば託すことができる。
その想いを受けて、それでも受け取れないと言うのはローに失礼だ。
だからモモは力強く頷いた。
「…うん。大事にする。必ず、あなたの力になってみせるわ。」
世界一の薬剤師に、必ずなるから。
それから、託された図鑑を熟読し、ようやく顔を上げたのは夜更けのこと。
「…もしかしたら湿気の問題なのかしら。」
熱帯雨林に生息する植物は湿気を好む。
ここ最近、晴れ続きだったから、外の湿度は低い。
「部屋の中の方が、きっと良いわよね。」
パタムと本を綴じると、早速鉢植えを取りに行こうと立ち上がる。
「コラ…、もう寝ろよ。」
「あとちょっとだけ。鉢植えを取りに行くだけだから。」
早口で言うと、そのまま部屋を出て行ってしまう。
「まったく…。」
人のことを言えたものではないが、モモは仕事のこととなると、熱が入りすぎる。
そういうときは食事も睡眠もおざなりになるから考えものだ。
夜の海は暗い。
波音だけが響くデッキを慎重に歩き、プランターエリアを目指した。
「ええっと…。」
手探りで目的の鉢植えを抱きかかえることに成功し、部屋へ戻ろうとしたその時、足元の段差に気がつかず、ガクンと踏み外してしまう。
「きゃ…ッ」
グラリとバランスを崩し、転ぶと思った瞬間、鉢植えだけは…、としっかりと胸に抱え込んだ。
ドサリ
しかし、予想していた衝撃はやって来ず、代わりに大きな腕に抱き留められていた。
「…あ、ロー…?」
暗がりで顔が見えなかったけど、彼からする香りがローであると教えてくれた。