第54章 【番外編①】海賊夫妻の始まりは
「……もうッ! ローからもなにか言ってやって!」
一向に謝ろうとしないコハクに業を煮やして、モモはローへと助けを求めた。
父親から厳しく言ってやれば、コハクも考えを改めるのでは、と思ったからだ。
けれど、話を振られたローはちらりとコハクを見やっただけで、なにも言わない。
それはつまり、ローもコハクが正しいと思っている証拠なわけだが、賢明な彼は口に出さない。
口に出したら最後、最愛の妻から怒りを買うとわかっているからだ。
この船において、最高権力を持つ支配者はキャプテンであるローではなく、力なき薬剤師なのだとクルーは全員心得ている。
心得ているからこそ、不穏な空気を察したクルーたちは医務室に入らず、あえて部屋の外で待機している。
「いいよ、謝らなくて。確かにさっきは、俺の方が悪かった。矢を向けてごめんな。」
ウォルトは、やはり誠実な少年だった。
結果として怪我を負わされたのはウォルトだというのに、自分が悪いと認めて謝れる。
この誠実さと素直さが少しでもローとコハクにあれば……と、羨ましく思う。
「わたしこそ、ちゃんと説明していなくてごめんね。大丈夫、こんな顔をしてるけど、ローも仲間たちも乱暴はしないタイプの人だから。」
「こんな顔で悪かったな。……ほら、これで終わりだ。」
大きめのガーゼをサージカルテープで留め、治療を終えたローが椅子から立つ。
「くだらねェ略奪や侵略には興味がねェ。お前も村に戻って下手に騒ぎ立てるなよ。」
「もう、言い方! 相手は子供なんだから、もう少し優しく言って。」
「ガキの扱いなんて知るかよ。ともかく、親のセキニンとやらを取ればいいんだろ? 壊しちまった商売道具は弁償してやる。いくらだ?」
責任=弁償というローの安易な考えはモモの求めているものではなくて自然と眦が吊り上がったが、それでも壊れた弓矢をどうにかしなくてはいけないのは事実。
苛立ちを堪えながらウォルトの様子を窺い見ると、彼は困ったように頭を掻いた。