第54章 【番外編①】海賊夫妻の始まりは
出会いこそ最悪ではあったが、少年ウォルトは誠実な子供だった。
間違いとはいえ危害を加えてしまった罪滅ぼしにと、集めた薬草を船まで一緒に運んでくれると申し出た。
正直なところ、こちらにはベポがいるので人手は足りていたが、それで彼の心が軽くなるのなら、とモモはありがたく申し出を受けた。
が、ここでひとつ問題だったのは、モモたちがウォルトに正体を明かしていなかったこと。
「か、海賊……!」
船を停めた沿岸までやってきたウォルトは、ドクロマークを掲げた黄色い海賊船を目にして薬草入りのカゴをぼとりと落とした。
「あ、薬草が……。ウォルト、大丈夫?」
「モモ、気遣う順番逆じゃない?」
海賊に怯える子供より薬草を心配してしまうあたり、モモもすっかり海賊に染まった証拠。
だってしょうがないじゃないか、薬草は仲間の命を救う大事な宝。
なにはともあれ、ウォルトは約束を果たしたわけだし、これ以上ここに留まる理由はない。
お礼と別れを告げて早々に村へ帰すべきだ、と思ったけれど、彼はどうにも運が悪い。
モモの帰りを待ちわびていた恐ろしい船長様に見つかってしまう。
「おい……、そのチビはなんだ。」
「あ、キャプテンただいまー。あのね、この子ウォルトっていうの。さっき森で出会ってさぁ。」
「キャ、キャプテン……?」
嬉しげに事情を話すベポの横で、ウォルトの顔色が青ざめていく。
閉鎖的な村で育ち、森で獣を狩りながら生活している少年には、大海で生きる蛮族の頭たる男の威圧は少々刺激が強すぎた。
ここでウォルトが怯えながら逃げ出す少年ならば話は早かったのだが、彼は幼くても村の戦士だった。
「海賊め、村を侵略しに来たのか! そうはさせない、村とミリは俺が守る……!」
「あ、違うよウォルト。わたしたちは…――」
慌てて事情を説明しようとしても、殺気立ったウォルトは興奮していて、つがえた矢の先をモモに向けた。