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セイレーンの歌【ONE PIECE】

第54章 【番外編①】海賊夫妻の始まりは




モモが見たのは、ただの布だ。
ただの布よりずっと美しい布だったけれど、仲間たちを絶望させるものとは思えない。

「どうしたの、みんな。なにかあったの?」

さすがに異常だと思って尋ねてみても、誰も答えてはくれない。
あのローでさえ、荷物を整理したまま黙っているのだ。
肝心な手はすっかり止まっているけれど。

仲間の不可解な行動に戸惑っていたら、後ろからキッチンを任せたはずのコハクがやってきた。

「その布で、ローに服を作るんだってさ。」

「コハク……ッ!」

ぎょっと驚いたシャチが我に返る。
なんで言うんだ!と顔に書いてあるが、背後を振り返っていたモモは気づかない。

「え、ローに? この布で?」

尋ねられたシャチは視線を四方八方に彷徨わせ、やがて自棄になりながら頷いた。

「そう! 船長に服を作ってやりたくて! なあ、ペンギン!?」

「え……ッ、ああ、そう! そうなんスよ! たまには船長にもひらひらした服を着てもらおうと思って!」

「お、おい……!」

ここで焦ったのはローである。
隠しておきたかった布が露見しただけでなく、まさか自分の服にされるとは。

しかし、事態を修正するにはもう遅い。
モモはしっかり仲間たちの発言を耳にしてしまった。

「ローに服を? オーガンジーで?」

オーガンジーは、男物の服に向かない。
そもそも、日常で使うような実用的な服には適していない強度。

女性物のスカートやワンピースにするとしても、透けるほど薄い布で作られたそれらは、パーティーに着て行くような外出着になるだろう。

そんな布で男物の服を作ろうと思ったら、バレエダンサーが着るようなふりふりのシャツくらいなもの。

ふと、フリルがついたシャツを着るローの姿を想像してみた。

がっちりした体躯を隠すくらいに袖や襟を膨らませるのもいいし、むしろ筋肉美を誇張させるのもいい。

ふりふりのシャツは似合わなく……ない。
むしろ。

「似合うと思う!」

力強く頷いたら、思わず立ち上がったローがなにかを言おうとして、しかし声にはならずに呻く。

「ローはなにを着てもカッコイイよ!」

「…………そうかよ。」

褒めたつもりなのに、ローの顔に諦めの色が見えるのはなぜだろう。



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