第54章 【番外編①】海賊夫妻の始まりは
コハクと共にキッチンへ運んできた食材を大方整理したモモは、仲間たちが妙に静かであることに気がついた。
「あら? 荷運びは終わったのかしら……。」
終わったなら終わったで、宴だなんだと騒ぐのがシャチたちの性格。
騒ぐどころか喋り声ひとつ聞こえないのは珍しすぎる事態だ。
「放っておけよ。」
「うーん……、でもちょっと様子だけ見てくる。コハク、ヒスイ、あとはよろしくね!」
「あ、ちょっと……。あーあ、行っちまった。」
嘆息しながら呟いたコハクの声はモモに耳まで届かず、不思議に思いながらデッキに赴くと、まるで葬式かなにかのようにズーンと沈んだ仲間たちが項垂れていた。
「ど、どうしたの!?」
誰か死んだのか!?と慌てて仲間の頭数を数えてみる。
大丈夫、全員無事だ。
ただ、なぜか全員フリーズしているけれど。
「みんな……?」
とりあえず、1番近くにいたペンギンの顔を覗き込もうと近寄ってみたら、顔より先に彼が手にしていた布へ視線が向いた。
「わ、綺麗なオーガンジー。」
見たこともないほど薄く滑らかな生地に、思わず感嘆の声を漏らした。
すると、それまで固まっていた仲間たちが即座に我に返った。
「わ、わあぁ~~ッ、モモ!」
「え、なに?」
「なななな、なんでいるんスか!?」
「な、なんでって……?」
ここはモモの海賊船なのに、いてはいけないのだろうか。
軽く傷つく。
「み、み、み、見た!?」
「見たって、なにを?」
「見てないんだね、モモ。ああ、よかった……。」
「えぇっと、よくわからないけど……、綺麗なオーガンジーのこと……?」
見たものといえばそれくらいで、首を傾げた。
まさかそれのことじゃないよな……と思っていたら、全員揃って顔面が蒼白になる。
それは絶望と呼ぶにふさわしく、原因が自分であることにモモはひたすら戸惑った。