第54章 【番外編①】海賊夫妻の始まりは
「おかえり~!!」
停泊場所に戻ると、デッキから身を乗り出したベポがこちらに向かって大きく手を振っていた。
「ただいま、ベポ。お昼寝をしてないなんて珍しいね?」
ベポが船番をする場合、高確率で昼寝をしている。
それだと船番の意味がない、とローに怒られるのが常なのだが、今日はしっかり真面目に見張っていたらしい。
「えへへ~、楽しみすぎて寝られなかったんだぁ!」
「楽しみ……? あ、夜ごはんが?」
「あ、そ、そうそう! 夜ごはんが!」
一瞬ベポが「しまった!」という顔をしたような気がしたけれど、見間違いだろうか。
正面を向いたモモの背後で、シャチとペンギンがチンピラ因縁顔でベポを睨んでいるとは知らない。
調達した荷物を船に上げ、縛っていたロープを切って所定の置き場所まで持っていく。
モモの担当は主に冷蔵食材であり、野菜や肉類を持ってキッチンに向かった。
モモがデッキから消えたあと、ベポがそそっとローに近寄る。
「ねえ、キャプテン。どうだった? モモのドレスあった? 教会は?」
地雷に近い質問をして、シャチは青ざめ、ペンギンがフリーズし、ジャンバールは目を逸らす。
「……ない。」
「え、ないの?」
「ああ、ちっぽけな村だった。ドレスどころか、目的のもんはなにひとつない。」
じわっとローの機嫌が悪くなる。
これは仲間や村にどうこうというより、モモにまともな結婚式も挙げてやれない己への怒り。
しかし、ローの怒りがどこへ向いていようと、クルーたちには関係のない話だ。
ローの機嫌が悪い時の惨事を身をもって知っている彼らは、必死になってフォローをする。
「で、でもさ、ドレスの材料はあったんだぜ。ほら、なあ、ペンギン。見せてやれよ!」
「お、おう! すんごいキレイな布が手に入ったんスよ。……ほら!」
筒状に巻かれた薄い布生地を取り出し、さっと広げて陽光に透かす。
青みを帯びた白い布は、光を浴びるとよりいっそう美しく輝いて、ほんのり陽光を反射した。