第54章 【番外編①】海賊夫妻の始まりは
雑貨屋の店主に案内された倉庫は、一見するとただの家。
なんでも、元はただの家だったけれど、住人がいなくなってしまったために倉庫として利用しているらしい。
この村の人口は少なく、村人のほとんどが狩りをしながら畑を耕す狩人兼農夫。
海の向こうへ夢を抱き、島を出ていく若者も少なくはない。
過疎化が進んだ島では、よくある話。
「酒や食料ならあっちの部屋、薪や木材なら裏手に積んである。工芸品なんかもちょっとはあるが、あんまり珍しいもんはないよ。」
倉庫と化した家には、店に置ききれない商品が山積みになっている。
手入れはあまり行き届いていないようで、中には埃が積もった品も多く見られた。
「布や服はあるか?」
「ああ、衣類ね。こっちの部屋だよ。」
この村にローが求めるものがあるとは思えない。
思えないが、確認は必要である。
「ロー、服が欲しかったの?」
隣で意外そうにモモが目を瞬かせるのも当然。
ローは見かけによらず衣装持ちで、寂れた村で服を購入するほど困っていないからだ。
「……母さん。オレ、さっきの店で欲しいものがあったんだけど、買ってもいいか?」
「あ、そうなの?」
「ここ、長くなりそうだし一緒に戻ろう。」
気を利かせたコハクがモモを外へと誘い出す。
他の連中と違って頼りになる息子は、ローの心情をよくわかっていた。
もし結婚式をやるならば、できる限りの準備を終えてから彼女に知らせたい。
そうしないと、余計な気を回しがちなモモは金銭面や手間を惜しんで遠慮の塊となるから。
「あるといいッスね、ドレス。」
モモが去ったあとにペンギンが楽観的な発言をしたが、それに頷けるほどポジティブでもない。
こんなことになるのなら、もっと真面目にスフィンクスを見て回るんだったと後悔しても、後の祭りである。