第54章 【番外編①】海賊夫妻の始まりは
海賊船を含め、海を旅する船が島に上陸したら、すべきことはひとつだけ。
物資の補給である。
海賊は悪党だ。
蛮行の限りを尽くし、海を荒らすお尋ね者。
しかし、この大海賊時代において富をもたらすのもまた海賊であり、多くの村は海賊とわかっていても目を瞑り、事を荒立てたりはしない。
だから今日も、ハートの海賊団は堂々と平和な村を闊歩した。
畑仕事をしていた男性から聞いた話によると、この村には雑貨屋が1店あるそうだ。
生活必需品を扱う店は郵便屋も兼ねていて、自給自足でまかなえない島外の品を買えるのはその店だけ。
あとはもう、年に何度か訪れる行商を頼るのだという。
「こんにちは。」
「いらっしゃい。おや、見ない顔だね、旅の方かい?」
「はい。今日着いたばかりで。」
農夫に話を聞いたのも、雑貨店の主に話し掛けたのもモモ。
単純に、1番愛想がいいからだ。
こちらに敵意がなくても、屈強な強面な男たちから話し掛けられたら怖がられるだろう。
特に、ジャンバール。
「店にあるものなら、買っていってくれ。珍しいものがあるなら、売ってくれ。」
「ありがとうございます。薬とか、買ってもらえますか?」
「ああ、大歓迎だよ。」
船から持ち出した薬瓶をカウンターに広げ、店主に見定めてもらっている間に、ローたちは店の商品を物色する。
「この樽の中身、ラム酒ッスか?」
「ああ、ヘビーラムだよ。」
「あるだけ欲しいけど……、在庫はここにあるだけ?」
「いや、あとは倉庫に……、お嬢さん、この価格でどうだい?」
ペンギンが酒樽を確認しながら店主に問い、店主は答えながらモモに薬の価格を提案する。
小さな村で、薬の需要は高い。
価格を吊り上げようと思えばできるだろうけれど、モモは商人ではないので提示された価格に頷いた。
「倉庫の中を見たい。」
お小遣いにしては少し多い金銭を受け取った頃、店主にそう願い出たのはローだ。
店には食料や薪、日用品もだいたいは揃っているというのに、倉庫でいったいなにを見たいのだろう。