第54章 【番外編①】海賊夫妻の始まりは
数日後、ポーラータング号はとある島に到着した。
田畑が広がり、自給自足をモットーに生活するその島は、穏やかで、和やかで、……なにもない島だった。
「わあ、土のいい匂い。いい島ね、ここ。」
「……。」
のびのびした島を気に入ったモモの発言に、返事をする者はいない。
どうしたのかと思って仲間たちの顔を窺えば、なぜかみんな視線を合わせようとしない。
「……どうしたの?」
「いや、その……。」
口ごもるベポの隣で、やたら不機嫌なローが口を開く。
「なんにもねェ島だな、おい。」
口もとは笑っているくせに、目だけが全然笑っていないローの迫力は凄まじく、コハクを除いたクルーたちが冷や汗を流す。
「お、おい、こら、ベポ! なんて島に連れてくるんだよ!」
「え! おれのせい!?」
「そうッスよ! 航海士なんだから、船長が望む島に連れていかないと!」
いくらなんでも無茶な話だ。
このグランドラインでは、航路はすべて指針任せ。
航海士の力で希望の島にたどり着ける可能性はゼロに等しい。
「なんの話をしているの?」
「む……、さぁな……。」
事情を知っているであろうジャンバールに聞いてみても、素知らぬふりをされてしまう。
男には男にしか言えない密談でもあるのだろうか。
「使えないクマでスミマセン。おれ、船で待ってる。」
「あッ、ずりィぞ、ベポ! 船番なら俺が……!」
普段は船番を嫌がるくせに、今日に限って取り合いになっているのも謎だ。
「ああ、でも、ベポが船番の方がいいかもね。だってほら、害獣と間違われちゃうかもしれないし。」
農村と呼ぶにふさわしい村でクマを見かけたら、村人が驚いて腰を抜かしてしまう。
平穏な村にトラブルを招くのは本意ではなかった。
なにせ、ここは本当に穏やかで、和やかで、なにもない島。
本屋も酒場も、武器屋もアクセサリーショップも、学校も役所も教会も。
当然、ウエディングドレスを入手できる店も。