第54章 【番外編①】海賊夫妻の始まりは

どかり、と音を立てて椅子に座ったローを、モモは訝しげに振り返った。

｢どうしたの？｣

｢……なんでもねェよ。｣

なんでもないと言うわりには、機嫌が悪いしふて腐れている。
いや、どうやら機嫌が悪いわけではなさそうだ。

じいっとローの表情を観察したら、眉を顰めてあからさまに嫌がられた。

｢俺を見るな。｣

｢そう言われましても、視界に入るんですけど？｣

見られたくないのなら、わざわざリビングで寛がなければいいのに。

｢……。｣

見るなと言ってきたくせに、今度はローの方がじっとモモを見つめてきた。

｢なぁに？｣

｢……お前は、その、なんだ。｣

どうにも歯切れが悪い。
なにか言いたいことでもあるのだろうか。

しかしローは、それっきり口を噤んでしまう。

｢それで？｣

｢……あ？｣

｢なにか言いたいことがあったんじゃないの？｣

｢……。｣

眉間の皺がぎゅうっと深まった。
そんな怖い顔をしていないで、用があるならさっさと口に出してほしい。

｢お前は……、例えば、いや……。｣

｢はいはい。｣

｢……お前の、……お前の服は、地味だな。｣

｢……はい？｣

なんだそれは。
散々もったいぶっておきながら、そんな悪口を言いたかったのか。

｢それはあれなの？ よくローが言う、喧嘩売ってんのか？ってやつかしら。｣

｢そうじゃねェ。いや、お前の服が地味なのは事実だが。｣

｢ああ、やっぱり、喧嘩を売っているのね？｣

持っていたおたまを手のひらでパシパシ鳴らし、｢やるならやるぞ｣アピールをする。

｢待て、違う。｣

｢うふふ、どう違うのか教えてほしいなぁ……。｣

｢落ち着け。ひとまず、それを置け。｣

｢やだなあ。わたし、落ち着いてるのに～。｣

｢わかった、謝る。事実を口にした俺が悪かっ――｣


ぽこーーん！


ローの頭に、愛妻による鉄槌が落とされた。