第54章 【番外編①】海賊夫妻の始まりは
この世界では、事実婚はそう珍しくない。
互いが互いを妻と、夫と認めればそれでいいのだ。
けれども、変わったものが意識だけだというのも味気ない。
なにかこう、もっと結婚したと実感できるものが必要なのではないかとローは考えた。
ゆえに、冒頭にあった“結婚式”を思いついたわけだが。
「そんなの、母さんに直接聞いてみればいいだろ。」
ため息混じりに呆れたのはコハク。
そう、この場には唯一モモがいない。
彼女は昼食を準備するためにキッチンに籠っている。
「バカか、お前は。モモが素直にやりたいと言うわけねェだろうが。」
「んじゃ、勝手にやればいいだろ。母さんなら、喜びはしても嫌がるわけねーんだから。」
「……。」
ローが沈黙した。
コハクに言われるまでもなく、モモが喜ぶであろうことはわかっていた。
むっつりと黙ったローの心情を、クルーたちは悟る。
ああ、恥ずかしいんだな……と。
結婚式をするには、タキシードを身に纏い、教会に赴き、十字架の下で愛を誓わなくてはならない。
我らがキャプテンは、とんでもなく格好いい。
スーツもタキシードも、和服や民族衣装も似合うだろう。
だがローは、そういうキザったらしい服装を嫌う傾向がある。
自分で想像してしまったのか、俯きながら愛用の帽子をがしがし掻いた。
上半身裸にパーカーを羽織るような恰好は恥ずかしいと思わないくせに。
「やめだ」と口を開こうとしたローの前で、夢見がちなベポが両頬に手を当てながら妄想した。
「結婚式かぁ。キャプテン、きっとカッコイイよね……。」
「おい、変な想像をするな。やるとは言ってねェ。」
「モモのウエディングドレス姿、すっごくすっごく綺麗で可愛いんだろうなぁ。」
「……。」
ローが沈黙した。
我らがキャプテンは、これでなかなか、わかりやすい性格をしている。
「……次の島へは、どのくらいで着く?」
「あ、どうかなぁ? 気候も安定してきたし、そろそろだと思うけど。」
「……そうか。」
やるともやらないとも言わぬまま、ローは船内への扉を開けてリビングに引っ込んだ。
「やるな、あれは。」
「やるだろ、絶対。」
我らがキャプテンは、これでなかなか……以下省略。