第53章 セイレーンの歌
鼻先に土をつけたまま起き上がった仲間たちは少し冷静になり、おずおずとモモの前に立つ。
「じゃあ、じゃあ、痛くならないように気をつけるから、ぎゅってしていい?」
つぶらな瞳を潤ませて両手を広げるベポは巨体なのに可愛らしく、モモは顔を綻ばせながら1歩近づいた。
「お、俺たちも……!」
シャチとペンギンが同じく手を広げたのは、雰囲気的に自然な行動。
しかし、モモが「もちろん」と答える前に、ローがすげなく「却下だ」と断った。
ベポには文句を言わなかったくせに、シャチとペンギンにだけ待ったをかけるローは、やっぱり今も昔も心が狭い。
無言でモモがローの足を踏み、ちょっと黙れと伝える。
眉間に皺を寄せながら不服そうに黙るローの姿は、独占欲を拗らせた青臭い男そのもので、6年前からちっとも成長していない船長に3人は苦笑を零した。
それから、記憶を取り戻した仲間たちとモモは無言の抱擁を交わす。
ひとりずつではなく、いっぺんに抱き合ったものだから、円陣を組むような体勢で。
すん、とベポが鼻を啜る音を立てたのを皮切りに、3人の涙腺が崩壊した。
つられて、モモも泣いた。
「モモ、モモ、おかえり……!」
「うん、ただいま。」
「バカ野郎、あんな……あんな無茶しやがって……ッ」
「うん、ごめんね。」
「次にいなくなったら、絶対許さねぇッス!」
「うん、約束する。」
ベポの白毛に抱かれ、シャチの腕に支えられ、ペンギンの肩に涙を吸いとられ、ジャンバールに見守られる。
夫を得て、息子を得て、仲間も得て。
ここが、モモの帰るべき場所。
6年前、まだ声を失っていた頃の自分に言ってあげたい。
どんなに辛くても、失っても、孤独でも、前を向いて生きている限り、幸せは訪れる。
(そうか……。)
唐突に、理解した。
これから先、幸福な時間や出来事は数えきれないほどあるだろう。
でも、モモにとって最上の宝は、ここだ。
この、温かく愛おしい帰る場所。
それこそが、モモにとって、ひとつなぎの大秘宝。