第53章 セイレーンの歌
丘を下り、停泊場所までやってくると、海賊船のデッキに人影が集まっていた。
「あ、あ、モモ!」
「モモだ、モモ!!」
「ああ、ほんとにモモじゃねぇか!」
騒がしく、本当に騒がしく叫んでいるのは、ベポとシャチ、ペンギンの3名。
生き別れになった家族を見つけたような反応に、思わずモモは瞬いた。
ここまでの道中で、彼らの記憶も戻ったのだと聞かされていた。
それは大変喜ばしいことではあるが、モモは昨日もその前も、みんなと一緒に旅をしていたはず。
6年前の記憶のせいで、仲間たちの態度がここまで変化するとは。
「おーい、モモ、モモ――うわぁ!」
「ベ、ベポ!?」
手すりから身を乗り出しすぎたベポが船から落ちた。
驚くモモをよそに、ベポに続いてシャチとペンギンも飛び降りる。
コハクとジャンバールは、ハシゴを使って危なげなく降りてきた。
「モモ、モモ~!」
転落したベポを含め、記憶を取り戻した3人が涙と鼻水まみれの顔で駆け寄ってきた。
ローがそうであったように、ベポたちは熱い抱擁を……。
交わさなかった。
「ぶべ……ッ」
モモに抱きつこうとした3人が、蛙が潰れたような声を上げる。
抱きつく間際にモモとローが瞬間移動によって消えたため、目標を失って地面に倒れ込んだのだ。
「キャプテン、ひどい……!」
「そうッスよ、自分ばっかり!」
顔面に土をつけながら非難をする3人をモモは心配し、ローは冷めた目つきで見下ろした。
「バカ言うんじゃねェ。そんな勢いで飛びつかれたら、モモが潰れるだろうが。」
「え、えっと、受け止められなくてごめんね?」
残念ながらローの意見は正論で、あのまま抱擁を受けていたらモモは押し潰されてぺしゃんこだった。
シャチとペンギンはともかくとして、ベポの体重は恐らく500kg近い。
6年の時を経て心身ともに強くなった彼らとは違って、モモは平凡な人間なのだ。