第53章 セイレーンの歌
今日1日で、どれだけ泣いたかわからない。
瞳から水分がなくなるんじゃないかというほど、泣いて、泣いて。
目蓋が熱をもって腫れぼったくなった頃、ローが「そろそろ行くぞ」と声を掛けてきた。
円陣のような抱擁を解き、顔を上げたモモたちときたら、本当にひどい顔だった。
「ふふ……ッ」
「ふへへッ」
互いに笑い合ってから、涙を拭いた。
波の音が、モモたちを呼んでいる。
早くおいでよ、と。
乗り込む船は、幸せを呼ぶ黄色い潜水艦。
すでに乗り慣れてしまったこの船は、6年前、水の都にて一緒に発注した海賊船。
錨を上げて、海賊旗のシンボルマークが描かれた帆を張った。
「舵を切れ。行くぞ、野郎ども!」
「「アイアイサー!!」」
海賊船は、動き出す。
モモの大切な仲間と、家族を乗せて。
選択肢の数だけ、道がある。
でも、どんな道を選ぼうとも、きっと最後は同じ道へと繋がるはずだ。
例えば、この大いなる海が、いずれはひとつの終着点へ繋がるように。
旅立とう、それぞれの道へ。
旅立とう、冒険の海へ。
「覚悟しておけよ? 次の敵は手強いぞ。」
「大丈夫。どんな敵が相手でも、海賊王に敵うわけないんでしょう?」
「……違いねェ。」
海賊王。
この偉大なる海を制す覇者に贈られる称号。
それを決めるのは時代か、民衆か。
少なくとも、モモの中では決まっている。
ラフテルにたどり着かなくても、ゴール・D・ロジャーが遺した宝を手にしなくても、モモの王は、ただひとり。
モモの肩を抱き、不敵に笑うこの人だけ。
わたしの海賊王は、わたしが決める。
「さあ、行きましょう。」
冒険の旅は、まだまだ続いていく。
風が吹く。
モモたちの背中を押す追い風は、あの日、別れを選んだ日と同じ海の風。
旅立ちの風。