第53章 セイレーンの歌
風が吹く。
海から生まれた突風が木々を揺らし、墓前に供えていた花束から無数の花びらが散った。
赤、黄色、青、白、桃色。
色とりどりの花弁が花吹雪を作り出し、しっかりと抱きしめ合ったモモとローを中心に渦を巻く。
ひらり、ひらりと宙を舞う花びらは、まるで2人を祝福しているかのよう。
もしかしたら、それは、この地に眠る“誰か”が起こした結婚を祝うフラワーシャワー。
よかったな、おめでとう。
そんな言葉が聞こえたような気がして、モモはまた涙を流す。
「きゅい……。」
か細い鳴き声が聞こえて視線を足もとに落とすと、同じようにつぶらな瞳から涙を零したヒスイがいた。
「ヒスイ……。」
これまで、まるでモモひとりが頑張ってきたかのように語っていたが、それは違う。
こんな自分に付き合って、共に激動の6年間を生きてくれたヒスイがいる。
モモと一緒にいることを選び、コハクの相棒を務め、仲間たちに忘れられてしまったヒスイが。
「……ありがとな。」
感謝の気持ちを伝えたのは、モモではなくロー。
ヒスイとの出会いから、共に過ごした日々を思い出したローは、モモと同じくヒスイに感謝をしていた。
「よく、モモとコハクを守ってくれた。お前も立派な俺の仲間だ。」
「きゅきゅ、きゅい!」
感激したヒスイがぴょんと跳ねて、モモの肩に着地する。
小さな手でひしりとしがみつき、まるで3人で抱き合っているような体勢になり、おかしくなって笑ってしまう。
「ふふ、ありがとう。ありがとう、ヒスイ……!」
緑の身体に頬擦りをして、ローの背から腕を離す。
「……行くか。」
「うん、帰りましょう。」
帰りたい。
幸せを呼ぶ、黄色い潜水艦に。
仲間が待つ、海賊船に。
手を繋ぐ。
6年越しの再会を果たしたモモとローは、不思議植物の妖精と、そして炎の男に見守られながら歩き出した。