第53章 セイレーンの歌
生きている限り、モモの愛する人は何度でも幸せをくれる。
突然起きた奇跡が信じられなくて、まだ夢の中にいるみたいだ。
「本当に……? 本当に、思い出してくれたの?」
「ああ。疑うなら、お前が恥ずかしがるような過去でも語ってやろうか。」
意地悪な言い方がいかにもローらしくて、またひとつ幸せを重ねた。
「どうしよう、わたし……。死んでしまうくらい、幸せだわ。」
思わず零してしまった呟きを聞いたローは、懐かしそうに瞳を細めた。
そして、少しだけおもしろそうに言葉を続けた。
「……死ぬなんて、言葉にするな。お前がいなくなったら、この先俺はどうやって生きていけばいい?」
「……?」
失くした記憶すべてを取り戻したばかりのローと違って、モモは自分たちが今、過去とまったく同じセリフを口にしたと気づけない。
「これからは、お前が思い出す側になりそうだな。」
薄く笑ったローは、モモの額に一度だけ口づけをすると、左手を握ったままモモの前に跪いた。
「どう、したの?」
珍しくローを見下ろす体勢になったモモは、ローが起こした不思議な行動に首を傾げる。
「お前に、返さなきゃなんねェもんがある。」
そう言って彼は首に提げていた“あるもの”を取り出した。
「あ……。」
それは、つい先日、モモがローに預けたもの。
肌身離さず大切にしていて、でも、ローに持っていてほしいと願ったもの。
過去に縛られたくなくて、長らく心の支えであったそれを手離した。
だけど、モモにとって過去とは、縛るものではなくなった。
多くの人がそうであるように、モモにとっての過去は、思い出し、懐かしみ、共に語らうものへと変化した。
だから、大切な宝物はあるべきところへ帰る。
さんさんと降り注ぐ太陽の光を受け、モモと、そしてローの宝物がきらりと輝いた。
その石を手に入れた者は、必ず幸せになれると伝えられていた。
美しく、金緑色に輝くそれは。
スター・エメラルド。
モモとローの、約束の指輪。