第53章 セイレーンの歌
初めてコハクと会った時、シャチとペンギンは驚き、そして笑ったものだ。
ドッペルゲンガー、他人の空似、隠し子だと。
まさか、その冗談の中に真実が含まれているとも知らず。
「キャプテンの子……。キャプテンとモモの子……。どうしよう、おれ、どうしよう!」
「こういう時、どうしたらいいんスかねぇ!?」
「わっかんねぇ! 知り合いにガキが生まれたことなんかなかったから……!」
事態を飲み込んだら、次に訪れたのはパニックだ。
なにせ、親愛なる船長に子供が生まれた。
「生誕祝い! なんかこう……、祝わねぇと!!」
「いや、オレの誕生日は今日じゃねーし。」
「な、名前は? 名付け本とか買った方がいいんじゃないッスか!?」
「オレの名前、もう決まってるから。」
「赤ちゃんの部屋はどうする!? おれ、必要なものを買いに行ってくる!」
「……。」
誰が赤ちゃんだ。
コハクの額に青筋が浮き、鞘に入ったままの愛刀を構えた。
“インジェクションショット”
素早い突きを3人目掛けて撃ち放ち、隙だらけの仲間たちは見事に悶絶した。
「おふ……ッ、なにすんだよ……コハク……!」
「いい加減、落ち着けよ。オレはもう、一端の海賊なんだからな!」
今さら子ども扱いをされたくはない。
鼻息荒く怒ったら、まさしく目から鱗が落ちた3人が「そうだった……」と納得した。
「それよりもモモだよ!早く迎えに行って、ごめんねって謝って、それで、えっと……!」
「だから、落ち着けってば。」
白いクマ毛を鷲掴みにしたコハクは、慌てるベポを押し留めた。
「母さんなら、とっくに迎えに行ったよ。」
今頃は、きっと……。
「そ、そっか。じゃあ、俺たちはなにをすれば……。」
「なにもしなくていいんじゃねーの? ただ、迎えてやれば、さ。」
それだけで、涙するモモの姿が容易に想像できた。
「ん……、そうッスね……。」
「盛大に迎えてあげよう。それで、今夜もお祝いしよう! アイアイ、いつまで寝てんだジャンバール!!」
唯一寝たままだったジャンバールが理不尽に叩き起こされる。
可哀想な彼は、一味に起きた奇跡を知らない。
でも、説明する時間はまだある。
再会した恋人たちの語らいは、きっと長くなるだろうから。