第53章 セイレーンの歌
コラソンと別れてからずっと、復讐のために生きてきた。
信頼する仲間を得て、己の船を持ち、自分だけの海賊団を結成しても、自分の使命だけは忘れない。
『どんな道を選んだとしても、あなたなら大丈夫。』
確かに俺は、唯我独尊の道を選び、仲間たちを置いてドフラミンゴを討った。
死をも覚悟したその道は、死を恐れていなかったから。
あの人の仇を討てるのなら、こんな命、惜しくはなかった。
だが、もしあの時、お前が傍にいてくれたなら、未来は大きく変わっていただろう。
運命を変えたのは、きっとあの冬島――ドラム王国だ。
冬島はいつも、俺から大切なものを奪っていく。
“おかえりなさい、ロー。”
雪が積もる公園のベンチで、お前は変わらず微笑んだ。
少し元気がないように思えて理由を尋ねたら、誤魔化すように笑っていた。
俺は医者のくせにどうしようもなく愚鈍で、お前の変化に気がつけなかった。
“ロー、わたしの夢を教えてあげる。”
知りたい?と思わせぶりな言い方をするお前は、実に軽く、もうひとつの夢を語った。
“わたしの夢はね、あなたの夢が叶うこと。”
ワンピースよりも、海賊王よりも、ドフラミンゴ倒すことが重要だと言った俺を、お前は応援した。
その陰に潜んだ決意を、最後まで俺は気がつけずに。
“今のわたしにとって、なにより大事な夢だもの。”
だが俺は、なによりお前が大事だった。
“難しくても、やり遂げるのでしょう?”
“……当然だ。”
“なら、わたしも ローのことを応援するわ。……どんなことがあっても。”
そんな応援なんか、してほしくはなかった。
“じゃあ、ロー。約束してくれる? なにがあっても、諦めないって。”
“そんなの、当たり前だろうが。”
人生最大の後悔は、あの日お前が流した涙に気がつけなかったこと。
どんな道を選んでも大丈夫。
そう思ったなら、なぜ。
『不安ばかりなの。でもきっと誰も同じはず……。』
わかってる。
麦わら屋と紡いだ縁も、ドレスローザで果たした仇討ちも、すべてはお前の後押しがあったから作り出せたもの。
不安にさせて、悪かった。
だからその代わり、なにがあっても諦めない。
あの日の約束は、この先の未来までずっと有効だ。