第53章 セイレーンの歌
自分がお調子者だという自覚はある。
その性格が災いして、酒や女、賭博で何度痛い目に遭ったことか。
その度に助けられ、「次はねェぞ」と釘をさされて十数年。
そんなシャチにも、守りたいものがあった。
尊敬する船長。
気心知れた仲間。
幸せを呼ぶ黄色い潜水艦。
あとは、自分を兄のようだと慕ってくれた“妹”。
実際のところ、それを妹だなんて思ったことはない。
年下のくせに自分よりしっかりしていて、一味のピンチを幾度も救ったそれを、妹だなんて陳腐な存在で語れるわけがなかったのだ。
“あなたがいてくれて、本当によかった。”
違うよ、違うんだ。
そう思っているのは、俺の方。
お前は自分がどれだけ俺たちにとって大切な存在であるかを、少しもわかっていなかったんだな。
“すごく、感謝してるの。”
感謝してるのも、俺の方。
お前はきっと、知らない。
広大な海を旅する一隻の船に宿る灯は、お前の笑顔だった。
お前はきっと、知らない。
灯が消えた海賊船が、どれだけ冷たい海を旅してきたのかを。
忘れてしまった俺たちは、以前の日常を取り戻したけれど、それはもう、日常なんかじゃない。
残された俺たちは、いつもどこかで誰かを探している。
『ずっと一緒にいられる気がして……、ごめんね。』
冗談じゃねぇよ。
ずっと一緒にいるはずだろう?
お前がいれば、船長は船を飛び出してドフラミンゴに挑みになんて行かなかった。
お前がいれば、俺たちだって船長だけに戦わせたりしなかった。
お前がいれば、お前がいれば。
なあ、わかるか?
お前がいなくちゃ、俺たちはこんなにも情けない。
“シャチって、なんかお兄ちゃんみたい。”
ああ、いいよ、もうなんでも。
兄でも弟でも、親でも子共でもいいから、どうか少しでもお前の足枷になりたい。
二度と逃げていかないように、離れていかないように、重い足枷になってやる。
言ってもいいだろうか、俺も船長みたいに格好良く。
次はねェってさ。
なあ、俺の妹よ。