第53章 セイレーンの歌
それを初めて見つけたのは、ベポだった。
傷つき、ぼろぼろになったそれを憐れんで、治療してやろうと言い出したのも。
あの時の選択は決して間違っていなかった。
なぜなら、ベポが拾ったそれは、ベポだけでなく仲間たち、そして敬愛するキャプテンにとってかけがえのない存在となったのだから。
ベポは、それが大好きだった。
ベポがそれに優しくしたのは、自分より下の存在ができたからではなかった。
それが自分より下の新入りだなんて、一度たりとも思ったことはない。
まだまだミンク族の認知度は低く、喋るクマと気味悪がられることが多い自分に、本当に優しく笑いかけてくれたから、だから大好きになったのかもしれない。
ベポがそれを大好きなように、「大好きよ」と何度も言われた。
“親友”と言ってもらえた時には、それこそ天にも昇るような気持ちで。
ローもシャチもペンギンも、ジャンバールのことだって好きだ。
でもたぶん、ベポが守りたいと、ずっとずっと笑顔でいてほしいと1番に願うのは、間違いなくそれだった。
今も、昔も。
縋るように、尋ねたことがある。
“どこにも行かないよね? ずっと一緒だよね?”
ベポがまだ、自分を“ボク”と呼んでいた、甘ったれの若僧時代。
どうしようもなく押し寄せてくる不安を吐き出したら、それは穏やかに笑っていた。
“当たり前じゃない、いつも一緒よ”
嘘つき。
本当は、決めていたくせに。
1番大事なことを、親友であるボクに打ち明けてくれなかったくせに。
バカ、バカ。
そう責めてやりたくても、ボクはもう、君を忘れてしまった。
バカ、バカ。
なぜボクはあの時、それの嘘を見破れなかったのだろう。
最初で最後のチャンスを、ボクは見逃した。
だから、今度は間違えないように、君の傍にずっといたい。
『無くなるわけじゃない。……もとの二人に戻るだけ。』
そうだね、無くなるわけじゃなかった。
君もボクも、変わってしまったけれど。
でも、変わらないものの方が多すぎるから。
そうでしょう?
ボクの、おれの、最初の親友。
今度こそ、君を必ず取り戻すよ。