第53章 セイレーンの歌
結局、ローが目を覚ましたのは昼過ぎだった。
酒に強いローは二日酔いという最悪の事態に見舞われることはなかったけれど、残念ながら仲間たちはそうもいなかい。
身支度を済ませてダイニングへ上がると、死屍累々と化した仲間たちが転がっている。
「おそよう。」
嫌味を含んだ挨拶を口にして、テーブルでひとり医学書を読んでいたコハクがジト目で顔を上げた。
「……ひどいありさまだな。」
「そう思うなら、ちっとは加減を教えてやれよ。」
床に倒れ伏して意識を失っているクルーは、明け方ローが放置していったもの。
寝返りさえ打った形跡がないあたりからして、復活はそうとう遅そうだ。
「……モモは?」
「墓参りに行った。」
「あ? ひとりで行かせたのか?」
「ヒスイが一緒だよ。」
だから大丈夫と言いたげだが、あんな緑の物体がついていったところで、なんの役に立つというのだ。
「出た、過保護。」
「コハク、お前最近、シャチたちに似てきたんじゃねェのか?」
「や、誰だってそう思うだろ。それより、ログが溜まったら出発するんだろ? 母さんはすぐに帰ってくるだろうし、早めに死人を生き返らせてくれよ。」
情報が正しければ、間もなくログは溜まるはず。
先にゾウへ向かった麦わらの一味を不必要に待たせるわけにもいかず、当初の予定どおり旅立ちたい。
「チッ。おい起きろ、シャチ、ペンギン!」
優しい薬剤師が不在の船で、ぽんぽん肩を叩いて起こしてくれる良識人はいない。
けっこうな強さで足蹴にされたが、二人が起きる気配は微塵もなかった。
「……どうすんの?」
「はぁ、めんどくせェ……。」
強制的にアルコールを排出する方法もなくはない。
腹を殴って嘔吐させる……という現実には効果がなさそうな荒療治ではなく、バラバラに切り刻んだ身体からアルコール成分を取り出すという、地道かつ非常に疲れる方法で。