第53章 セイレーンの歌
多くの人がローに対して抱く第一印象は、冷たく残虐な男。
海賊とはそうあるべきだし、ルフィたちのような慈善活動には賛同できない。
が、しかし、他人と本人がどう分析していようとも、彼の本質はそれとは異なる。
仲間想いで義理堅く、敵意のない弱者を決して傷つけない彼は、果たして残虐非道と言えるのだろうか。
要するにローは、自分の命よりも大切な仲間を見捨てない。
例えば、へべれけに酔っ払い、あらゆる醜態を曝し、大イビキを掻いて地面とお友達になっていても。
調薬のためにモモが帰り、眠気を覚えてコハクが戻り、付き合いの義理を果たした時間になっても、ローは最後まで宴会の場に残っていた。
宴に最も乗り気じゃなかったローが居座っていた理由は、ひとえにクルーたちの面倒……もとい、後始末をつけるため。
シャチとペンギンだけならまだしも、巨体なジャンバールやベポが転がっていては村人に迷惑が掛かる。
かといって、宴に誘ってきた張本人、マルコの世話になるのは絶対に嫌だった。
モモや仲間たちが気を許しても、ローは警戒心が強い男。
うっかり寝首を掻かれでもしたら、目も当てられない。
どうせならとっとと落ちてくれ……と願いつつ杯を傾け、最後のひとりが沈んだのは太陽が顔を出す間近。
少々乱暴な運び方で仲間たちを連れ帰り、船のデッキに転がした頃には夜が徐々に明けてきて、酒の匂いをシャワーで綺麗に流し落とす。
いつもならばここでモモと同じベッドに潜り込むところだが、ローの身体には酒気がまだ残っていて、恐ろしく酒に弱い彼女に影響が出ないよう、念のために自室で眠った。
夜更かしには、慣れている。
浅い睡眠の取り方も熟知しているはずなのに、隣にモモがいないだけで寝つきが悪い。
何度か寝返りを繰り返しながらようやく眠りにつく頃には、すっかり朝になっていた。
朝が早いモモが隣の部屋で起き出す気配を感じたが、ローの意識はそのまま眠りの世界に沈んでいった。