第53章 セイレーンの歌
聞けば、ベポは半ば家出のように故郷を旅立ち、北の海にあるスワロー島へたどり着き、当時は手がつけられないほどの悪ガキだったシャチとペンギンに虐められたそうだ。
「そしたらよぉ、見慣れないガキがきてさ、睨んでくんだよ!」
「そうそう! だから、なんか文句でもあんのかーってぶっ飛ばそうとしたら、逆に俺らがやられちゃったわけでぇ……!」
「アイアイ、あの時のキャプテン、すっごくかっこよかったぁ!」
思い出話を肴に、3人の酒は進む。
途中でアニキ面したベポがジャンバールを巻き込んで、酔っ払いは4人に増えた。
基本的にジャンバールは翌日に残るような飲み方をしないけれど、この3人に絡まれたら話は別だ。
注がれた酒を飲めと急かされ、杯が空になったら注がれる。
エンドレスに続いたら、さすがの彼も酔っ払う。
「なんだあ、ジャンバール! もう限界かあ? なっさけないぞぉ!」
「う、うむ……。」
ジャンバールの細目が開いているのか閉じているのかわからない事態になっている。
酔うと眠気に襲われるタイプらしい。
「ちょ、ちょっと、無理強いはダメよ?」
「え~、なにモモ? あ、キャプテンのカッコイイところだよね! えっと、それからぁ~……。」
聞いてない。
そんな話は全然聞いてない。
大丈夫だ、教えてもらわなくても十分知っているから。
ローは息をしているだけで格好いい。
「お前ら、いい加減にしろ。」
渦中の人物が現れた時、モモはつい、来るのが遅い……と恨みがこもった視線を向けてしまった。
「全員飲みすぎだ。酒に飲まれるなと日頃から忠告しているはずだが?」
厳しい顔をしてみても、酔っ払いたちには通じない。
なぜなら、酔っ払っているから。
「あはは~、キャプテン、一緒に飲も~!」
「お酌するッス、あれ、ジョッキジョッキ……あった。」
「ペンギン、そりゃ茶碗だろ~!」
重いため息を吐いたローが、親指と人差し指で目頭を揉む。
ローの気持ちが痛いほどわかるモモは、腰を上げていそいそと船へ戻った。
翌日に必要となるであろう、二日酔いの薬を作るために。