第13章 証
「…お前、服の後ろがずいぶんと汚れてるな。」
「え、本当だ。」
埃除けのためにエプロンを付けて作業していたから前は汚れずにすんだけど、スカートの後ろが土で汚れてしまっていた。
「もう、そのまま風呂入って来いよ。」
「そうする。あ、…いたた。」
立ち上がったところで、ギシリと痛む身体に悲鳴があがる。
「どうした?」
「ちょ、ちょっと…筋肉痛が。」
自分よりも数倍動いたはずのローはなんともないのに、情けなくて涙が出そうだ。
「ハァ…、ちょっと待ってろ。」
ローはため息ひとつ吐いて、部屋を出て行った。
(うぅ…、呆れられた。)
こういうとき、自分にも歌の力が効けばいいのにと思う。
歌の力はあくまで聞き手に及ぶものであって、歌い手には効果がないのだ。
だからモモは自分のケガを治すことはできない。
しばらくすると、ガチャリ、とドアが開き、ローが戻って来た。
「ほら、来いよ。」
手招きされ、その後をついて行った。
連れてこられた先は、モクモクと湯気を放つバスルーム。
中では猫足のバスタブにお湯がなみなみと張られている。
「筋肉痛は湯に浸かると和らぐからな。しっかり暖まれよ。」
「わたしのために、沸かしてくれたの?」
バスタブにお湯を張るのは、なかなか大変だから普段はシャワーだけしか使わない。
「別に…。お前、辛れェんだろ? さっさと入っちまえよ。」
照れくさいのか、ローはわざと素っ気なく言うと、バスルームを出て行った。
(湯船なんて、ひさしぶり…。)
ローの優しさに感謝して、早速服を脱ぎ、浸かってみた。
「ん…、熱…。」
熱めに張られたお湯が気持ちいい。
「ふぅ…。」
胸まで浸かり、乳酸が溜まった手足をゆっくり揉みほぐすと、だんだん痛みが和らいできた。
「はぁ、気持ちいい。やっぱり湯船は最高ね。」
そうそう海の上ではお湯を張ることはできない。
停泊中だからこそできる、最高の贅沢だ。
「せっかくの湯船なんだから、早く出てローにも楽しんでもらわないとね。」
いつまでも独占していては、ローに悪い。
身体もほぐれたことだし、そろそろシャンプーでもしようかと、バスタブから立ち上がる。
ところが、つるりと足を滑らせ、バランスを大きく崩してしまう。