第53章 セイレーンの歌
「気分、悪くない?」
「全然。美味くはないけど、不味くもないな。」
「そういう問題じゃなくて……。」
ランプに照らされたコハクの顔を慎重に窺い見たけれど、少年の顔色は普段と変わらなさそうだ。
どうやらコハクには、モモの酒の弱さは遺伝していないらしい。
「ボウズはイケる口だなァ。父親に似たようでなにより。」
「まーね。」
新しい杯を手に、マルコが再び酒を注いでコハクに渡した。
「マルコさん、コハクはまだ未成年で……!」
「そいつは見りゃわかるが、海賊としてやっていく以上、酒には慣れた方がいいぜ。いつでも水が飲めるとも限らねぇんだからよい。」
「でも……。」
ハラハラと不安そうにするモモを横目に、「心配性だ」とコハクに苦笑された。
その言葉、ローとコハクにだけは言われたくなかった。
「ま、俺がついてんだ。なにかあればすぐに対処してやるよい。」
大海賊の元船医に言われてはモモも引き下がるしかなく、少年の飲酒を容認する医者と、親の目の前で非行に走る少年という非現実的な構図ができあがった。
急性アルコール中毒を起こしたらどうしよう、と不安に思う気持ちも残っていたが、遠目から様子を見ているはずのローがなにも言わないので、結局はモモもそれに従った。
それにしても、マルコはコハクに“父親に似たようで”と発言していたが、父親が酒豪だとどうして知っているのだろう。
特に意味はなかったのか、それとも海賊たる者 酒に強くて当然なのか。
そこまで考えて、ちらりと他の仲間たちの様子を見る。
すでに酒に飲まれてできあがっている仲間たちは、ローとは違って酒に強いとは言い難い。
それなりに仲良くやっているコハクとマルコの傍を離れ、モモは次の仲間のもとへと足を向けた。