第53章 セイレーンの歌
その夜は、久しぶりに騒がしく楽しいひと時を過ごした。
閉鎖的な村とはいえ、マルコを含めた支援者のおかげか、白ひげ縁の村では美味しいご馳走が振る舞われた。
肉汁滴る骨付き肉の炙り焼き、お日様の光をいっぱい浴びて育った野菜の揚げパイ、甘い果物の香りが芳醇なワイン。
白ひげ海賊団の幹部に畏縮していたベポたちもアルコールが入っていくうちに日頃の陽気さを取り戻し、気安く絡んでは猛獣スフィンクスに猫じゃらしを仕掛けるほどに酔っ払う。
「わかっているだろうが、お前は飲むなよ?」
「……わかってます。」
自分の酒の弱さと酒癖の悪さを知っているモモは、ローに忠告されるまでもなく酒から遠ざかっている。
が、しかし、マルコや村人との距離が急速に狭まり、楽しそうに酒が入った杯を傾ける仲間たちを眺めていると、羨ましい気分になるのも事実で。
ノンアルコールの果実水をちびちび舐めるモモはそれほどわかりやすい顔をしていただろうか、隣にいたローにわかりやすくため息を吐かれた。
「どうしても飲みてェなら、船に戻ってから俺だけの前で飲め。」
「それじゃ意味がない……というか、大丈夫、飲みません。」
飲酒した経験は数えられるほどしかないのに、同じ数だけ酒の失敗をしているのがモモだ。
「……ローもあっちに混ざってもいいのよ?」
酒も飲めない自分に付き合うのはつまらないだろうと思って気を利かせたが、当の本人は迷惑そうに眉を顰めるだけ。
「俺が混ざりたいと思うか?」
「思わない、ね。」
社交的とはほど遠いローは、本来ならばこうして外部の賑やかな宴に加わるのすら厭う。
彼がこの場にいるのは、完全に付き合いだ。
「お前こそケツに根を生やしていないで、連中と話したけりゃ、そうすればいい。」
「もう少し、マシな言い方があるんじゃない……?」
「俺に上品な口調を期待するな。ほら、行け。」
別にモモもローの傍を離れたいわけではなかったが、こちらはローと違って人とのコミュニケーションを好むタイプ。
せっかくだからと腰を上げたモモは、果実水が入ったグラスを手に広場を歩いて回った。