第53章 セイレーンの歌
ぞろぞろと引き上げていく海賊たちを眺めながら、マルコは「青いな……」と呟いた。
尊敬する親父と愛すべき仲間を奪った政府やティーチを許せない気持ちは、当然まだある。
島に居着いていても、己が死ぬまで海賊だという気持ちも。
ただマルコは、白ひげ以外の男を頂点とは認めたくないし、彼が頭を張る船以外に乗りたくない。
だからもう、ああいった青さは、手に入らないのだろう。
「歳食っちまったな、俺も。」
なァ?と背後の墓に同意を求め、ささやかな、本当にささやかな可愛らしい花に目を向ける。
死者に手向けるには質素すぎるそれは、彼女が供えていったもの。
(そういや昔、エースのやつが仲間にしたい女がいる……とか言ってたっけな。)
ティーチの首を取り、そいつを連れて戻ってくると言っていた彼は、以来二度と船には帰ってこなかった。
「お前が連れてきたかったのは、あの子だろい?」
問い掛けても、答えは返ってこない。
代わりに、オレンジ色の帽子が風もないのに揺れた気がした。
「フラれちまったなァ?」
転びかけたモモを抱きとめ、呆れた眼差しを向けながらも、彼女の手を引いた男の瞳は愛しさを語っていた。
手を引かれるモモもまた。
数歩先を歩く子供が一度だけ振り返り、僅かに微笑んだのが印象的だった。
『じゃあ、コハクのオヤジは誰なんだよ。』
やつらの目は、節穴なのだろうか。
父親が誰かなんて、決まっている。
憶測も推測もいらない。
あの子供の姿が、すべてを語っているじゃないか。
「医者のくせに、遺伝学もわかんねぇのかよい……。」
マルコは医者だ。
他人のそら似も、ドッペルゲンガーも信じない。
人の遺伝子はいつだって、正しい答えを導き出す。
「死の外科医も、まだまだ青い……。」
その青さが時折、眩しく感じられるけれど。