第53章 セイレーンの歌
実はというと、コハクの実父についてはモモとロー、そしてコハクの間でしか話題に上がっていなかった。
ゆえに、仲間たちは未だ勘違いをしたままである。
「バ……ッ、お前、馬鹿野郎!!」
「キャ、キャプテン、おれたち、なんにも言ってないし、なんにも聞いてないからね!!」
シャチが慌ててペンギンの口を塞ぎ、ベポが意味もない言い訳をし、ジャンバールは空から視線を外さない。
不自然に不自然を重ねた仲間たちの反応に、ローも以前は同じ推測をしていたと思い出す。
「バカ言ってんじゃねェよ。あいつの父親は火拳屋じゃねェ。」
「船長……。そう思いたい気持ちもわかりますけど……。」
「アイ……。」
「お前ら、話をはぐらかしたいのか深掘りしたいのか、どっちだ。」
違うと知っていても癪に障る言い方をされ、苛立つローに助け舟を出したのは、知らないフリをしきれなくなったコハクだった。
「バーカ、オレの父さんはエースじゃねぇよ。」
ふんと鼻を鳴らしたコハクに同意するように、腕に抱いたヒスイが「きゅう!」と鳴く。
「え、でも……。」
「変な勘違いはやめろよな。母さんとエースはそんな関係じゃなかったし、友達以上の気持ちなんかなかったよ。」
子供の言うことだとしても、ローの心に安堵が生まれた。
モモを疑っているわけではないが、一夜限りの愛なんて、恋人じゃなくても起こりうる。
「じゃあ、コハクのオヤジは誰なんだよ。」
「少なくとも、うちのエースではねェなァ……。」
突然降ってきた部外者の声に、ベポとシャチ、ペンギンが「どわあァ!?」と汚い悲鳴を上げた。
当然ローは気づいていたし、空を眺めていたジャンバールも気づいていた。
接近に気がつけなかったコハクは、驚きはしても取り乱さない。
4人のうち、僅か6歳の少年が1番まともな反応をしたことに、頭痛が隠せなかった。
元白ひげ海賊団の隊長に気づけないくらいでは、まだまだ部下の修行が足りない。