第53章 セイレーンの歌
目を瞑って黙祷を捧げるモモに倣い、コハクとヒスイが沈黙した。
三人から数歩離れた仲間たちは、帽子を取って一礼したあと、恐らくは長くなるであろう墓参りを見守っている。
「……暇ッスね。」
「おい、不謹慎だぞ。」
「いやァ、だって、なんもすることねぇんだもん。墓、綺麗だし。」
故人を偲ぶどころか冒涜するような言い方をするペンギンだが、海賊なんてそんなもの。
戦死上等な彼らは弔い合戦こそすれど、大地に眠る機会に恵まれない。
墓参りだって、大海原に眠る魂のために、どぼどぼ酒を海に流す程度である。
背を丸めてひたすらに祈るモモを眺めながら、ベポがこんなことを呟いた。
「おれが死んでも、あんなふうに悲しんでくれるかな?」
「いや、物騒な話をすんなよ。悲しんでくれるだろうけど。」
「だよね、よかった。ほら、モモと火拳って仲が良かったみたいだから、こう、不安になっちゃってさぁ!」
「どこに嫉妬してんの、お前。」
「嫉妬深いクマでスミマセン……。」
だんだんボリュームが大きくなっていく喋り声は、そろそろモモの耳に届きそう。
馬鹿らしい会話を止めるために、ローがシャチの後頭部に刀の柄をがつりと打ち込んだ。
「いってェ……!」
「うるせェ、そろそろ黙れ。」
「なんで、俺! うるさくしてたの、ベポなのに!」
「たまたま打ちやすかった。」
「嘘だ! 船長ったら贔屓、贔屓!」
ぎゃんぎゃん喚くシャチのせいで集中力が途切れたのか、コハクは呆れ、ヒスイは不思議そうに後ろを振り返っている。
余計うるさくなってしまったとジャンバールが天を仰いだ時、空気が読めないペンギンがさらなる追い打ちをかけてきた。
「やっぱ、コハクの父親って火拳なんスかねぇ?」
途端にシャチの喚き声が消え、空気が凍る。