第53章 セイレーンの歌
「あれ、みんなも行くの?」
墓とスフィンクスを守るマルコに挨拶をしたあと、モモは早速コハクとヒスイを連れて墓参りをしようとしていた。
もしかしたらローはついてくるかな……と思っていたら、予想に反してベポ、シャチ、ペンギン、ジャンバールまでもが行くと言う。
「アイアイ! 火拳にも白ひげにも関わり合いはないけど、モモの友達なら、ちゃんと挨拶しないとね!」
「俺、とっておきの酒を供えてやろ。ちょっと飲んじまってるけど。」
みんなが優しい。
じんと感動するモモの隣で、愛刀を肩に掛けたローは当然の如く頷いた。
「なにがあるかわかんねェんだ。ひとりで行かせられるか。」
「……ヒスイはともかく、オレを無視すんなよ。」
同じく愛刀を背に差したコハクが胡乱げな瞳で睨んだが、さくっと無視をされていた。
新米パパは息子に厳しい。
というわけで、ハートの海賊団総出で墓へと参じる。
大事な海賊船が無人になってしまうが、いいのだろうか。
赤髪海賊団が船長、シャンクスが建てたという墓は、忌み嫌われる海賊にはもったいないほど立派な墓だった。
彼らが生きた証として、墓標の裏には白ひげの愛刀“むら雲切”が。
エースの墓には彼がいつも被っていたオレンジ色の帽子とタガーが吊るされている。
「エース……。」
海賊のくせに愛されて、海賊のくせに惜しまれて死んだ二人の墓には、ひまわりやガーベラ、コスモスにデイジー、ユリや菜の花、季節を問わず様々な花が手向けられていた。
花畑のようなそこに、モモは自らが育てた玉ねぎとジャガイモ、レモンの花を供えた。
小ぶりで慎ましい野菜の花は、すでに手向けられた花々と違って見劣りする。
でも、エースが好きだった野菜料理の源と、自分らしい花を贈れたことに満足している。
「エース、わたし……やっぱり嘘をついちゃった。」
小さく呟いてから両手を組み合わせ、ひと筋の涙を流す。
結局モモは、広い海の誘惑には勝てなかった。
いち早く察し、何度も海へ誘ってくれた彼の手を取れなかったことを、墓前で詫びる。
ごめんね、そして……。
愛させてくれて、ありがとう。