第53章 セイレーンの歌
そこは、新世界に佇む静かな島。
穏やかな陽気と安定した気候に恵まれたその島の大地には、時代に名を刻んだ二人の男が眠っている。
大きな滝に守られるように隠された穴の向こうには、かつての海賊王と唯一互角に戦った男が守る、優しい村があった。
海賊王に1番近い男とまで言われた覇者が遺したその島は、今も彼の“息子たち”によって守られている。
かの男によって作られたその島に、今、一隻の船が停泊した。
ログが溜まる時間は2日。
不要な争いを避けるためにも、その船の主――トラファルガー・ローは2日だけの滞在を決めていた。
「なにが起こるかはわからねェ。野郎ども、気を引き締めていけよ。」
と、警戒をしながら上陸したのは初日の話。
その島の住人は、ローの心配を吹き飛ばすように、優しく呑気だった。
「ああ、お前、エースの弟を逃がしたやつだろ? ま、ゆっくりしていきなよい。」
と、島の守り人である不死鳥マルコに歓迎されたのも初日の話。
以来、モモを含めたハートの海賊団は本当にゆっくりしている。
この島、スフィンクスには海底大監獄インペルダウンにて放し飼いにされている人面ライオンが生息しているが、ルフィを襲った時の獰猛さはなく、まるで島に住まう猫のように人懐っこい。
麦わらの一味と再び別れ、ハートの海賊団がスフィンクスにやってきた理由は、たったひとつだけ。
墓参りである。
桜が舞い、海を臨む崖の上に、世界最強の男という異名を欲しいままにした偉大なる海賊、白ひげことエドワード・ニューゲートと、呪われた血に負けず、最後まで白ひげを父と慕った男、ポートガス・D・エースの墓が建てられている。
ポートガス・D・エース。
次はきっと、お前を連れていくから。
太陽の笑顔を残し、永遠に会えなくなってしまったモモの友達。