第52章 ハート
愛、居場所、勇気。
ローからもらったものは数多くあれど、形に残り、なおかつ恋人らしい愛情の証はこの指輪が最初で最後。
星空の下で贈られたあの日を、モモは永遠に忘れない。
逆境の中で生まれる力、大きな希望。
プラチナに描かれたカモミールの花に込められた想い。
そして、リングの裏には、彼があまり口にできないたったひとつの言葉が綴られている。
“愛してる”
わたしもよ。
変わらずあなたを愛している。
時が経っても、記憶がなくても、生まれ変わっても、何度だってあなたにだけ恋をする。
だから……。
「この指輪は、ローが持っていて。」
「あ……?」
不可解そうに眉根を寄せるローには、モモの言葉が違った意味に聞こえたのだろう。
悩ましくため息を吐いたあと、チッと舌打ちが鳴る。
「俺に遠慮してんのか? まあ正直、前の男の匂いが残るこれにいい気分はしねェが、お前が遠慮するようなことじゃねェ。」
そこは「気にしない」と言えばいいのに、ローはそういった部分を隠そうとしない。
けれど代わりに、いつだってモモの想いを優先してくれるのだ。
「お前の大切なもんを取り上げるつもりはねェよ。物に罪はねェんだ。さっさとつけておけ。」
「……。」
思えば、麦わらの一味と行った温泉街は、モモにとって人生を分岐する島だった。
もし、あの地で秘薬を口にしなかったら。
もし、あの地でコハクの本音を聞けていなかったら。
もし、あの地でサカズキに投降しなかったら。
ひとつでも違っていたら、こうしてローの腕に抱かれることもなく、胸の中に彼の鼓動を感じることもなかったかもしれない。
スター・エメラルドの指輪は、何度もモモを助けてくれた。
ある時はローの妹を、ある時は古の人魚姫を、そしてある時はモモの母を呼び寄せて、立ちはだかる困難にひと筋の光を与えてくれた。
人生を分岐したあの地で、いつでもモモに寄り添ってくれた指輪が離れていったのは、たぶんそういう運命なのだ。
心の支えにしていた愛の証。
でも、それはもう、指輪に頼らなくても感じられるのだから。