第52章 ハート
モモは互いの心臓を交換する行為を、互いの命を預け合う程度に考えていたが、残念ながらそれだけでは済まない。
心臓はある意味、感情を表す臓器。
驚きや恐怖、喜びや羞恥まで伝えるそれは、モモの感情を正しくローに伝えている。
そして運が悪いことに、ローは“死の外科医”の異名を持つ医者だ。
世界一といっても過言ではない彼にかかれば、早まる鼓動の正体が手に取るようにわかってしまう。
例えば、ローに触れられて期待に胸を躍らせたのも、キスをされて身体がいやらしく疼いたのも、すべて鼓動が筒抜けだったわけで。
「おい、ちょっとは落ち着けよ。胸が騒がしくてかなわねェ。」
「じゃあ、心臓を元に戻さない?」
「はァ?」
「ううん、ずっとじゃないの。今だけでいいから!」
心臓の交換は、ある種の信頼の証。
それを今さらなかったことにしようとは言わない。
でも、こういう場面だけは元に戻してほしいと願うのは、常人であれば真っ当な意見だろう。
まあ、そんな常人の意見を受け入れてくれるローではないのだが。
「断る、これは俺のもんだ。誰にも渡さねェ。」
そう言うなり、腹を撫でていた手が胸に這い上がり、中心から左にかけての膨らみをやわやわ揉んだ。
「これから先、お前の心臓はここにあるコレだ。返品は受けつけねェ。悔しかったら、俺の感情を読み取ってみろよ。」
「む、無理言わないで……あ、ちょ…ぁ……ッ」
心臓の話はどこへやら、ローの片手は臓器の在処を無視して胸を揉みしだき、強引に下着を捲って尖った頂をきゅっと摘まむ。
途端に電流が走ったような刺激に見舞われ、声に甘さが混じり、言葉を紡げなくなってくる。
「や……ん……ッ、まだ……、話が……、ひぅッ」
片方の胸だけを触られ、先端を捏ね、抓り、潰し、転がす。
様々な刺激を受けるたびに腰が跳ねて、腹の奥から流れる蜜がショーツを濡らした。
気がつかれたくないと両脚を閉じようとしても、内腿を這っていたもう片方の手がそれを阻み、あっけなく薄い下着に触れてしまう。
くちゅり、と淫靡な音がスカートの中で鳴り、布越しにローの指を濡らした。
恥ずかしくて泣きそうになっているモモの上で、ローの唇が弧を描く。
モモの胸の中で、彼の心臓の速度が上がった瞬間。