第52章 ハート
女の身体は性的に興奮すると、男根を受け入れる準備を始めるもの。
性感帯に触れて快楽を得ればもちろん濡れるが、興奮さえすれば触れなくても濡れる。
なにが言いたいのかといえば、モモはすでに濡れていた。
キス以外、愛撫らしい愛撫はされていないのに、モモの身体は潤いを生み、腹の奥から蜜が滲んできている。
湿った下着が肌に張りついたことで、モモはそれを自覚していた。
(やだ、もう、恥ずかしい……ッ)
勝手に興奮して、勝手に期待して濡れる身体をローに気がつかれたくない。
まるで自ら淫乱な女ですと宣言しているようで、羞恥で熱くなった身体が僅かに汗ばむ。
「……体温が上がったな。」
「……!」
本当に体温が上昇したとしても、それは1℃にも満たない微々たる数値のはず。
それに気がついてしまうとは、彼の感覚はどこかおかしいのではないか。
……いや、今さらだ。
「心拍数がやけに早い。なんだ、言いたいことでもあるのか?」
「は、早くなんか……。」
「また早まった。図星ってことか。」
「だから、早くなんてないったら。なにを根拠にそんなことを言っているの?」
ローが触れる脇腹と内腿では、たぶん脈拍を計れない。
だからわかるはずがないと高を括って強気に言ったら、呆れたように笑われた。
「なんだ、まさかお前、忘れてんのか?」
「え、なにを?」
「お前の心臓が、今どこで動いていると思ってんだ。」
「え……?」
無意識に首を下げ、自分の胸を見た。
規則正しく上下するそこには、まさしく心臓があるはずだが……。
(待って、ここにある心臓は……。)
モモの胸で動く心臓は、モモのものであってモモのものじゃない。
その事実に気がついて、モモの顔から血の気が引いた。
「ようやく気づいたのか。お前の心臓は俺の中だ。つまり、お前の鼓動が早くなればなるほど、俺の胸が騒がしくなるってわけだ。」
オペオペの能力で交換した心臓は移植とは違い、見えない膜に包まれて本来の持ち主の鼓動をそのまま伝える。
だから、モモが今感じている鼓動はローのもので、逆もまた然り。
「……ッ!!」
緊張も興奮も、すべては心臓を通じてローに伝わってしまうのだと知り、モモの顔は真っ赤に染まった。