第52章 ハート
「濡れてるな。」
ローが口にしたのは、端的な事実。
そこが濡れているのはとっくに自覚していたから、だから隠そうとしていたのに、気づかれた挙句に口に出されると泣きそうになる。
「おい、そういう顔をして煽るな。噛みつきたくなるだろうが。」
だったら口にしなければよかったじゃないか、と恨みを込めてじっとり睨み、苦しまぎれの反論をする。
「さっきからずっと、噛みついてるくせに……。」
モモとしては、キスを指したつもりだった。
しかし、すっと目を眇めたローは、「なるほど?」と言いたげに微笑を浮かべる。
「なら、何度噛みついても問題ねェな?」
――ブツン。
力任せにシャツを開かれ、いくつものボタンが弾け飛んだ。
大きく開いたシャツの合間から、下着を捲られてまろび出た胸が曝される。
「ボタンが……。」
「あとで縫ってやるよ。安心しろ、縫うのは得意だ。」
そういう問題じゃない。
ボタンは外すものであって弾き飛ばすものではないのだと注意をしようとするが、しかし、言葉にはならない。
つんと尖った胸の先端に噛みつかれたからだ。
「あ……ッ」
噛みつくという表現に従うように歯を立てて、器用に扱きながらいたぶる。
前歯で固定したそれを舌先でちろちろ舐められたら、微かな痛みとこそばゆさが快感へと変化した。
「や……、それ、んん……ッ」
黒い癖毛に手を埋めて引き離そうとすれば、頂の根元を噛んだ前歯がきゅっと狭まる。
「ひぅ……ッ」
びりっと走った刺激は痛みなどではなく、下半身に直結して新たな蜜が零れた。
とっくに機能を果たさなくなったショーツの上を指が何度も往復し、秘裂の割れ目をなぞっていく。
いつの間にか胸を隠す下着のホックは外されていて、肩紐が二の腕まで下がり、邪魔そうに退けられてモモの顎あたりで揺れている。
乱れた衣服が羞恥を誘い、いっそのこと全部脱いでしまいたい。
モモの心情を理解したのか、胸から口を離したローが上体を起こした。
腕を引かれてモモも起き、視線だけで脱ぐよう促される。
自分から脱ぐのは、いかにもやる気満々のようで気が引けるが、20半ばにもなって生娘ぶるのもどうかと思い、ボタンが飛んだシャツに手を掛け一気に脱いだ。
その瞬間、隙だらけになった肋骨部分にローが噛みつく。