第52章 ハート
言わずと知れたことだけど、今回の戦いで負った怪我はモモよりもローの方が遥かに重い。
灼熱のマグマに焼かれた傷は生々しく肌の上に残っていて、患部に当てられたガーゼや包帯を見ると、こんなことをしている場合ではないのではと冷静になる。
とはいえ、その気になってしまったローを諫められるわけもなく、モモはうろうろと両手を彷徨わせた。
「……なんだよ。」
「や、どこなら触っても大丈夫なのかな、って。」
首に腕を回そうものなら肩の傷に障りそうだし、かといって背中に回せば脇腹の傷に触れてしまう。
視線だけで「やっぱり今度にしない?」と尋ねてみるも、モモの怪我には厳しく自分の怪我には甘いローは、鼻白みながら宙を彷徨う腕を取った。
「思い上がるな。お前の力くらいで、俺に痛みを与えられるわけねェだろ。」
「それってちょっと、失礼…――んんッ」
両手をベッドに縫いつけられ、再び唇を塞がれた。
今度はモモが応じる隙もないくらい、捩じ伏せるような口づけ。
一方的に口内を弄る舌はすぐに離れ、顎を舐め、耳を噛み、首筋を滑る。
両腕の拘束を解いたローの手のひらがシャツとスカート、それぞれの裾から侵入し、脇腹と内腿を撫でられると、モモの息が乱れて後戻りできないところまで追いつめられてしまう。
「あ、やだ……ッ」
「やだじゃねェだろ、いつまでたっても素直じゃねェな。」
「だ、だって……!」
今から始まるのは、手を繋ぐでもキスだけで終わるでもない、いやらしいこと。
それを意識したら、羞恥を捨ててローに甘えるなんて無理だ。
けれども、男というのは謎な生き物で、獲物が嫌がると余計に興奮を煽る性質らしい。
形のいい唇をぺろりと舐めたローは、舌なめずりをする獣のように瞳を滾らせ、やんわりとモモへ体重を掛けた。
「別に構わねェよ。嫌がる女を素直にさせるってのも、悪くない。」
脇腹と内腿に触れていた手が、同時に上へと這いずった。