第52章 ハート
夜が明けた朝、青々と晴れた空の下で二隻の海賊船が隣り合わせに海を駆けた。
「本当に行くの? 間違いなく、危ないわよ?」
サウザンドサニー号、ポーラータング号のデッキには麦わらの一味とハートの海賊団が総出で集まっており、サニー号側の航海士が心配そうに眉を寄せている。
対して、黄色の潜水艦に立つ船長は愛刀を抱えたまま不遜な表情で頷いた。
「ああ、行くと決めた。この機を逃せば、そうそう足を運べる島でもねェしな。」
せっかく合流したばかりの麦わらの一味とモモたちは、またもや別行動をしようと話している。
きっかけは、ルフィがサボからもらったエターナルポース。
その指針が示す島は、ここからそう遠くない場所に位置しており、このまま冒険を続けていたら、かの地を訪れるチャンスは遠のいてしまうだろう。
「ごめんなさい、ロー。わたしがワガママを言っちゃって……。」
「うるせェ、船の進路は俺が決める。」
その島に行きたいと願ったのは、モモだった。
うっかり口に出してしまったから、正しい目的地から遠ざかり、ルフィたちにも迷惑を掛ける。
「ニシシシ、おれは別にいいよ。ゆっくり先に進みながら、トラ男とモモたちのこと、待ってるから。」
「……ルフィ、一緒には行かない?」
「ああ。俺はまだ、そこに行く資格がねぇんだ。海賊王になったらよ、みんなと行くつもりだから、そう伝えといてくれ。」
「馬鹿を言うな。海賊王の椅子は俺がもらう。てめェには渡さねェよ。」
「どっちが先に海賊王になるか、競争だな!」
どこまでも明るい笑顔を咲かせたルフィは、「じゃ、またな~!」と大きく手を振り、サニー号は面舵をきった。
直進するポーラータング号から離れていくサニー号に手を振って、モモは譲り受けたエターナルポースをベポに渡す。
「ベポ、よろしくね?」
「アイアイ、任せてよ! 途中で海軍が現れても、ちょちょいとやっつけてあげるから!」
冬の気候を脱し、新たな目的地を得たハートの海賊団は、一切の迷いもなく突き進む。
軽くなったキャラメル色の髪が潮風に揺られ、まだ見ぬ島に想いを馳せた。