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セイレーンの歌【ONE PIECE】

第52章 ハート




麦わらの一味と別れたモモたちは、なにかが変わったかといえば、そうでもない。

あいかわらずシャチやペンギンは船を汚して怒られるし、ジャンバールが後始末に追われている。
ローはベポの腹を枕に昼寝をしたり、研究と称して読書に耽ったり。

モモはといえば、戻った歌の力を使って野菜を育て、仲間の傷を癒し……まあ、とにかくあいかわらずだ。

例えば、モモが船内を歩くにしても、足の怪我を心配するローがいつの間にか傍にいて、抱えて歩こうとするのも過保護な彼の“あいかわらず”な範疇と言えるだろう。

しかし、心配ゆえの“あいかわらず”なのだとしても、甲斐甲斐しく世話を焼かれると、コハクと仲間たちの生温かい視線を受けるモモとしては恥ずかしくて堪らない。
だから数日後の夜、ローの部屋で足の包帯を外された時は安堵を覚えたものだ。

「治った?」

「ああ、治ったな。」

「よかった、これでようやく……。」

過保護なローから解放される……という言葉は喉の手前で飲み込んだ。
懸命な判断である。

「そうだな、ようやく…――」

解いた包帯を屑籠に放り投げたローの手がモモの頬に触れ、滑るように耳を握る。
耳朶を柔く摘ままれたら、なんだか危険な予感がした。

「あの、ロー……?」

モモの前に跪いている彼に不穏な空気を感じ、腰掛けたベッドの上を僅かに移動させたら、途端に牙を剥いた獣が細い腰を攫う。

「ようやく、ヤれるな?」

ぎらぎら滾る瞳に射抜かれ、凶悪そうな笑みを向けられたら、たぶんモモじゃなくたって震え上がるだろう。
例によって、モモも震え上がったわけだが。

「ちょ、待って……。」

「俺は待っただろ? おとなしくな。さすがに怪我人を喘がせる趣味はねェ。」

「そうだっけ?」

指摘したのは怪我人云々の部分だけど、ローにはお預けの部分を指摘されたように聞こえたらしく、形の良い眉が不機嫌そうに顰まった。

「おい、俺が我慢してねェとでも思ったのか? いったいいつからブチ込んでねェか、まさか覚えてないとでも言うんじゃねェだろうな。」

「ブチこ……。」

あまりにも下品であからさまな言い方に固まるモモを尻目に、獰猛な獣はまさしく獣らしく、モモの唇に噛みついた。



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