第52章 ハート
十数年若返る、もしくは十数年成長する効果をもたらす秘薬は、コハクを未来の姿へ導いた。
水面に映った己の顔を見た時、仲間たちの反応を知った時、コハクはすべてを理解する。
思い返してみれば、最初に彼らと出会った時から言われていた。
よく似ている、と。
出会った頃の関係は険悪で、コハクも彼も認めなかったけれど、彼の幼少期を知る仲間たちは口を揃えて「瓜二つだ」と感心した。
今の彼しか知らないコハクにはいまいち理解できなかったが、成長した自分は、まさしく彼だった。
クローン。
口から出まかせだった嘘が本当かと思えるほど似すぎた顔立ち。
しかし、これまでのモモの口ぶりからも、コハクが愛を持って生まれてきたのは明らかだ。
そうなれば、考えられる真実はひとつだけ。
コハクは医者の卵だ。
非現実的なファンタジーを信じない。
他人の空似なんて、限度がある。
他人じゃないとすれば、彼はコハクにとってなんなのか。
簡単だ、答えは最初から周囲が口にしていたじゃないか。
『コイツ、船長にソックリですけど……。まさか船長の隠し子ですか?』
生まれ育った島で、真剣な顔で尋ねてきたシャチの言葉を今も忘れない。
つまり、そういうことだ。
理由も、事情も、必要ない。
自分の父親が誰かを知りたかったのは、それが自分の力になると思ったから。
未来の自分に教えてもらった事実は、この上なくコハクの力になる。
この最上の答え以外に、なにも知りたくなどなかった。
コハクが産まれる前に、いかに運命が捻じ曲がったのだとしても、コハクは彼を父と呼び、彼はコハクを息子と呼ぶ。
それだけで、十分じゃないか。
けれど願わくば、彼と彼女の失われた絆が戻りますように。
諦めてしまったモモの代わりに、煌めく星空にコハクが祈った。