第52章 ハート
ペンギンのオペは無事成功し、デッキに戻ってきたローを巻き込み、宴は大盛況を迎える。
サカズキ相手に能力の限界を超え、激闘を制したローはかなり疲弊しているはずなのに、気絶でもしない限りルフィは遠慮をしてくれない。
「トラ男~! ほらほら、一緒に腹踊りしようぜ! ウソップとチョッパーとおれとでよ、1番を決めんだ!」
「誰がやるか、バカ。くだらねェことに俺を巻き込むな。」
「え~、遠慮すんなよ!」
「遠慮なんか微塵もしてねェ。」
鼻に割り箸を入れ、奇妙な顔をしたルフィの誘いを一蹴したローは、不愉快そうに酒が入ったグラスを傾けた。
「混ざってくればいいのに。」
「……腹踊りにか?」
「違くて。」
さっきからずっと、ローはモモの傍を離れない。
霜焼けのせいで動けないモモを気遣っているのなら、それこそ遠慮せずにみんなと楽しんでほしい。
「アレに混じって、楽しめるとでも思うのか?」
「楽しそうだけど。」
「アホの集まりだ、あれは。それより、手足の調子はどうだ。」
「大丈夫。ちょっと痛痒いけど、薬がよく効いているから。」
仲間たちの心配性は、きっとローから伝染しているものだ。
けれどローは船長なのだから、もっと自発的にコミュニケーションを取って欲しい。
「ねぇ、ルフィ! やっぱりローも混ざりたいんですって!」
「おい、モモ……ッ」
無理やりに参加させようとルフィを呼んだら、ゴムの腕がみょんと伸びて、ルフィがすっ飛んできた。
「なんだよトラ男、やっぱりやりたかったのか! そういや腹出してるし、やる気満々だな!」
「ふざけんな、これは違……ッ! こら、てめェ、離せ!」
筋肉質な腹部を無駄に曝していたのが仇となり、テンションを上げたルフィに攫われていくローを生温かく見守った。
彼らの陽気さが少しは移ればいいのに。
「なに意地悪してんだよ。」
「あ、コハク。失礼ね、意地悪なんかじゃないわ。社交の輪に飛び込んでもらっただけ。」
「……海賊に社交性はいらねぇだろ。」
アップルジュースを飲みながら呆れたコハクが横に立つ。
ローが連れて行かれた今、モモの傍にはコハクしかいない。
わいわい騒ぐ仲間たちを眺めながら、約束を果たすのなら今ではないかとモモは思った。